小説「新・人間革命」 勇将 24 2013年 3月12日

ハンセン病と診断され、「癩予防法」によって療養所に入れられると、社会とは隔絶された生活が続くのである。
 また、一九四〇年(昭和十五年)には「国民優生法」が公布され、国民素質の向上を目的に、遺伝性の病にかかった人は、生殖機能を失わせる手術等を受けられることが定められた。
 ハンセン病は、遺伝性が確認されていないにもかかわらず、その対象とされ、しかも、事実上、手術等を強制されたのである。
 国家が根本的に何を最高価値とし、何を守ろうとするのか──それによって、病にかかった人や体の不自由な人への対応は、著しく異なってくる。
 優秀な強い兵士を育成し、軍事大国をつくろうという考えのもとでは、人間は国家のための手段でしかない。
 そこでは、優れた兵士を確保することが大切であり、病にかかった人や体の不自由な人は、世の中の片隅に追いやられてしまう。
 また、経済の発展を第一義とし、経済大国をめざす国家では、経済的繁栄に寄与する人が大事な人材とされる。
 結局、利潤追求への貢献を尺度にして、人間が計測され、裁断されていくことを余儀なくされる。
 軍事大国であれ、経済大国であれ、人間を手段化する限り、その国家の目的に貢献できない人は排斥されていくことになる。
 万人が平等に尊重される国家、社会を築くには、決して人間を手段化するのではなく、人びとの生命を最高価値とした国づくりがなされなければならない。
 生命の尊厳という理念に基づく国家、社会の建設である。
 一九四〇年代に入ると、プロミンなどの特効薬が開発され、ハンセン病は治癒可能な病となった。
 さらに戦後、日本は民主主義国家としてスタートした。「癩予防法」も「らい予防法」となり、予防とともに福祉の増進に力を注ぐことが定められた。
 しかし、依然として患者は強制隔離され続けるのだ。ハンセン病は伝染力が強く、遺伝もし、治ることのない病であるとの偏見が、根深く浸透していたのである。