小説「新・人間革命」 勇将 44 2013年4月4日
溝渕義弘は、妻の静恵に言った。
「私は、創価学会に入ったよ」
最初、彼女は、〝何か医学を研究する学会なのだろう〟と思った。しかし、ほどなく宗教団体であるとわかり、ショックを受けた。
やがてノイローゼを克服した義弘は、静恵にも入会を勧めた。
彼女も〝この信心には何かあるのかもしれない〟という思いはあったが、実家は他宗の檀家総代であり、世間体も気になった。
学会を さんざん批判し、「信仰は自由です!」と、頑なに入会を拒否した。
だが、義弘に、「何も知らないのに批判するのは感心できないな。人格が問われるぞ」と言われ、活動はしないつもりで入会した。
すると、婦人部の幹部が激励に訪れた。
「私は、夫の顔を立てるために入会しただけですから、活動は一切しません」
「入会の契機はなんであれ、信心に励んでいけば、功徳がありますよ。
仏法では、『発心真実ならざる者も、正境に縁すれば功徳猶多し』と教えているんです」
「功徳ってなんですか」
「あなたは、なんだと思いますか」
「衣食住に恵まれることでしょ」
「それも功徳には違いないけど、それだけではありません。もっと大事なことがあります。何があっても負けない、強い自分になること。
そして、〝生きていること自体が、楽しくて、楽しくてしょうがない〟という境涯になること。
さらに、人の幸せを願い、幸せへの確かな道を教えてあげることができる、歓喜の人生を送ることですよ」
「強い自分」という言葉が、静恵の心を射た。
人の良さから、多額の負債を背負ってしまった夫を見て、〝人間は、いつ、不幸の落とし穴に嵌るかわからない。
一寸先は闇だ〟との、不安をいだいていたのだ。
「人間の中に光が生ずるや否や、人間の外にも、もはや闇はない」(注)とは、ドイツの文豪シラーの言葉である。
一切を決するのは、自分である。だから、その自分を強く光り輝かせていくのだ。そのための信仰である。
■引用文献
小説『新・人間革命』の引用文献 注 「人間の美的教育について」(『シラー選集2』所収)新関良三訳、冨山房