小説「新・人間革命」 奮迅 47 2013年6月28日

戸田城聖は、山本伸一を凝視して語った。
 「君には、川越地区のこと以外にも、さまざまな活動の重責を担ってもらおうと思っている。
 これから何かと忙しくなるだろうが、埼玉は大事だ。だから、本腰を入れて、川越地区の建設に取り組んでくれ給え。
 御書を通して、深く信心を打ち込み、人を育てるんだ。組織を強化するには、人材の育成しかない。
 これは、地味だが、七十五万世帯達成のカギを握る大切な作業になる。できるか!」
 伸一は、間髪を容れずに応えた。
 「はい! 全力で川越地区の建設にあたってまいります」
 戸田は目を細めて、嬉しそうに頷いた。
 伸一は、師の構想を実現するうえで、極めて重大な責任が、自分の双肩にかかっていることを感じた。
 『この御書講義は、師の願業を実現するための、突破口を開く戦いの一つなのだ! 
 もし、これが成功しなければ、先生の広宣流布の構想は、緒戦からつまずいてしまうことになる。
 弟子として、そんなことは、絶対に許されない!』
 伸一は、仕事と学会活動の合間を縫い、講義する御書を研鑽した。
 何十回と拝読し、わからない箇所は徹底して調べ、思索に思索を重ねた。
 『戸田先生の「名代」として講義に行くのだ』と思うと、緊張が走り、研鑽にも、唱題にも力がこもった。
 一九五一年(昭和二十六年)の九月二十五日、第一回となる川越地区御書講義の日を迎えた。
 夕刻、大東商工の事務所で、川越へ向かう伸一に、戸田は言った。
 「講義の一回一回が勝負だぞ。『これでもう、川越には来られないかもしれない』という、一期一会のつもりで臨みなさい。
 講義は、真剣で情熱にあふれ、理路整然としていなければならぬ。
 そして、仏法に巡り合い、広宣流布に生きることができる歓喜を、呼び覚ませるかどうかが勝負だ」