若芽 13 2013年 11月4日

山本伸一たちは、さらに三階に行き、工作室を見たあと、作法室に入った。
伸一は、児童たちに語った。
「今日は、創価中学校と高校の入学記念祝賀会に出て、それから校内を回ってきたんです。一緒に、ここで休憩しようよ」
畳敷きの作法室で、座卓を囲んだ。
伸一の前に、コップに入ったジュースが置かれた。
彼は、それを、子どもたちに勧めた。コップの位置が児童から遠かったため、気を利かせた教員が、手を伸ばし、児童に渡そうとした。
「必要ありません! 自分ですることが大事なんです。甘やかしてはいけません」
伸一に言われて、教員は、慌てて手を引っ込めた。
児童にしてみれば、飲むように勧められても、ジュースは伸一の前にある。
身を乗り出して取るには、気後れがする。でも、喉は渇いている。ジュースは飲みたい。
では、どうすればよいか――伸一は、子ども自身に考えさせ、行動する力を身につけさせたかったのである。
生きていくには、どうすればよいのかわからないことに、多く出くわすものである。
そうした時に、どう対応していくのか――その困難解決力ともいうべきものこそ、実は、よりよい人生を生きるうえで、極めて大切な力といえる。
女子児童の一人が、緊張した顔で手を伸ばしてコップを取り、喉を潤した。その姿を見ながら、伸一は、教員たちに言った。
「放任はいけないが、過保護であってもいけません。
過保護であれば、人間としてなかなか自立できず、臆病で、挑戦心が乏しい子どもになってしまいがちです。
子どもの将来を考え、一人ひとりが、幸福な人生を生き抜くために、何が大切かを熟慮し、教育にあたっていくんです。
皆さんが、この学校で行っていくことは、子どものための教育革命でもあるんです」
創価小学校への伸一の期待は大きかった。