若芽 23 2013年 11月16日

山本伸一は、四月九日、東京創価小学校の入学式終了後、「王子の木」「ひめの木」の記念植樹に参加し、一緒に万歳を三唱した。
それから、正門を入って、すぐ右側に植えられた一本の桜の前に立った。
小学校の校舎建設の責任者を務めた所長の鈴木元雄を顕彰する桜である。
伸一は、桜を見ながら、児童たちに語っていった。
「この桜は、小学校の校舎を建ててくださった人たちへの、感謝の思いを込めて植えたものです。建設作業の責任者は、鈴木さんという方でした。
グラウンドだったところに穴を掘り、鉄やコンクリートで基礎を築き、柱を立て、床や壁をつくって、校舎を建ててくださった。
作業は、たくさんの人が、雨の日も、強い北風の日も、雪の日も続けてくださった。
なかでも鈴木さんは、家にも帰らず、寒い建設中の教室に泊まったりしながら働き続けた。
みんながおうちで、テレビを見たり、眠っていた時も、ずっと働いてくださった。
そうして、こんなに立派な校舎ができたんです」
児童たちは、何度も頷きながら、じっと伸一の顔を見つめて、話を聴いていた。
「みんなの周りには、みんなのために、陰で、いろいろな苦労をして働いてくれている人が、たくさんいるんです。
学校を建ててくださった方もそうです。お父さんやお母さんもそうです。
これからお世話になる学校の先生や職員の方たち、また、通学で利用することになる電車の運転手さんや駅員さんもそうです。
みんなのために、朝早くから夜遅くまで頑張ってくださっている。その方々のご恩を忘れない人になってください」
イタリア・ルネサンスの芸術の巨匠ミケランジェロは、手紙に記している。
「おまえのために働いてくれた人の恩を忘れぬように気をつけるがいい」(注)
恩を知ることによって人間の道を知り、恩を返すことから人間の生き方が始まる。
■引用文献
小説『新・人間革命』 の引用文献  注 『ミケランジェロの手紙』杉浦明平訳、岩波書店