求道33  2014年7月22日

山本伸一は、福島県の代表幹部との懇親会で、県長の榛葉則男らに、指導者論などを語り続けた。
「若いリーダーは、ともすれば、合理的な思考法のみで、物事を進めていこうとしがちである。
合理主義も大切ですが、いかに理にかなった理屈であったとしても、それだけでは、人は動かない。人間は感情の動物だからです。人は心で動くんです。
思いやり、情愛、誠実をもって心を通わせ合う。そして信頼を勝ち取る。それがあってこそ、人は勇んで行動するようになる。
したがって、『あの人は優秀だが、心は冷たい』と言われるような人間になってはならない。頭はクールがよい。
しかし、心はホットであることだ。凍てた人間の心を、温かく包み、溶かし、蘇生させていくのが、仏法指導者なんです」
伸一は、懇親会が一段落すると、今度は別室で役員らを激励し、さらに皆で勤行した。
その後も、県幹部や各部の幹部などと話し合いを重ね、懇談は、四度、五度となった。
翌日の午前中は、代表メンバーに贈るために、次々と歌や句を詠み、書籍や色紙に揮毫していった。
婦人部の代表とも、語らいの時間をもった。そして、午後二時、次の訪問地である栃木研修道場へ向かった。
車で福島文化会館を発った伸一は、栃木へ行く前に、郡山会館を訪れた。
長年、この会館の管理者を務め、前年の三月に他界した根本孝俊の追善の勤行を、どうしても行いたかったからである。
郡山会館は、当初、福島会館として誕生し、伸一が第三代会長に就任した翌月の一九六〇年(昭和三十五年)六月、彼が出席して開館式を行った、
深い思い出が刻まれた法城であった。
今は、根本の妻・スエが管理者として、夫の遺志を受け継ぎ、郡山会館を守っていた。
到着した伸一は、スエに笑顔で語りかけた。
「今日は、ご主人の追善法要をさせていただこうと思って、訪問しました」