求道40  2014年7月30日

山本伸一が、青年時代に、恩師・戸田城聖との語らいのなかで、世界広布への雄飛を心に定めた師弟誓願の天地・厚田──。
今、その厚田に集った若き勇将たちは、三十年後をめざして、新たな旅立ちを開始したのである。
この六月十一日、伸一は、青年部総会の前後も、北海道の大学会や未来会メンバーを激励し、厚田村の村長らとも語り合っていた。間断ないスケジュールであった。
妻の峯子もまた、伸一と同じ心で、同志の激励に走った。
十一日夜、峯子は、墓地公園に近い望来大ブロックの大ブロック担当員宅を訪問した。
実は、前々日、厚田支部の各大ブロックから、婦人部総会の招待状が届けられていた。
さらに、前日の十日には、厚田の婦人部員約百五十人で縫い上げたアツシを、二人の婦人が代表して墓地公園に持参したのである。
アツシは、オヒョウの樹皮などから作った糸で織った上着である。
若き戸田城聖が東京へ旅立つにあたって、母親が縫い上げて持たせ、戸田が生涯の宝とした品である。
伸一は、アツシを持参してきた代表と語らいのひと時をもった。
「珍しいものを、作ってくださってありがとう。明日、大学会の総会がありますので、青年たちにも見てもらいます。
きっと、みんな喜びます。大志に燃えて旅立った戸田先生を偲ぶ、貴重な品となります。今日は、記念として一緒に写真を撮りましょう」
そして彼は、メンバーへの土産として、手提げ袋二つ分の菓子を贈った。
二人の婦人が、伸一と別れて歩き始めると、峯子が足早にやって来た。
「帰りのお車はございますか。お菓子は、それだけで、皆さんに行き渡るでしょうか」
「大丈夫です。車で来ておりますので。お菓子も十分です」
峯子の気遣いに、彼女たちは恐縮した。
気遣いは、友の心の扉を開き、魂の交流をもたらし、信頼を育む種子である。