求道68  2014年9月2日

山本伸一は、深い感謝の思いをもって、谷沢千秋と記念のカメラに納まった。
それから、居合わせた人たちと唱題し、出発前にも、皆で一緒に記念撮影をした。
その時、伸一は、「谷沢のおばあちゃん、どうぞ」と、千秋を隣に招いた。
彼女は、自分の来し方を振り返るように目を細め、感慨を込めて言った。
「信心のおかげで、学会と山本先生のご指導のおかげで、今は、もったいないぐらい、幸せなんです。感謝、感謝です」
感謝の心は、歓喜を呼び覚まし、幸福境涯へと自らを高めゆく原動力となる。
谷沢家では、その夜、千秋と息子の徳敬、そして徳敬の妻が、伸一から贈られた句を見て、決意を噛み締めていた。
「長者たれ」との言葉が、徳敬の心に、深く刻まれた。
「必ず長者になる! 先生のご期待にお応えするんだ。それには、自分の店だけでなく、地域全体を活性化させなくては……」
彼は誓った。働きに働いた。懸命に祈り、知恵を絞り、オリジナルの土産品の試作に取り組んだ。
「別海牛餅」「別海牛乳煎餅」「別海牛煎餅」と、何十品目もの新商品を、次々と開発していった。
そのなかから幾つもの商品がヒットし、飛ぶように売れていった。
地域のスーパーやホテル、空港、デパートなどへも、販路が広がった。
また、ドライブインの建物も十二坪から二百十坪に増築した。
さらに、二百五十台収容の駐車場、土産品製造工場、二百五十人収容の食堂も造った。文字通り、上春別の、別海の、長者となったのである。
谷沢千秋は、亡くなる少し前まで、店で接客を続けた。伸一との約束通り、「看板娘」であり続けた。
そして一九九一年(平成三年)、大満足のなかに、八十九歳十一カ月の生涯の幕を閉じたのである。
誓い、決意こそ、願いを成就する種子である。励ましとは、心の大地を耕し、心田に、その種子を植える作業である。