求道67  2014年9月1日

山本伸一は、谷沢徳敬を見つめて言った。
「すばらしいお母さんですね。あなたは、最高の母親をもったんです。
お母さんとは、あとで記念撮影をしますので、ここでは、あなたと二人で写真を撮りましょう」
「いや、あの……。すみません」
徳敬がためらったのは、伸一が背広にネクタイを締めているのに、自分がネクタイもしていないことを申し訳なく思ったからだ。
二人が並ぶと、同行していた「聖教新聞」のカメラマンがシャッターを押した。
「お元気で。また、お会いしましょう」
伸一は、急いで、谷沢千秋らの待つ、西春別の個人会館へ向かった
徳敬は、夢を見ているような思いにかられた。
個人会館に到着するや伸一は、「谷沢のおばあちゃんは、いらしていますか」と尋ねた。
和服姿の凜とした老婦人が手をあげた。
「はい、私です。長旅、お疲れでございましょう。
私は、先生とお会いできるこの時を、心から、心から待っておりました……」
老婦人の目が、見る見る潤んでいった。
伸一は、握手を交わしながら語った。
「今、お宅に、おじゃましてきました。おばあちゃんが縫ってくださった座布団にも、座らせていただきました。
そして、お題目を唱えてきました。湯飲み茶碗もありがとう」
「願いが、遂に叶いました。こんなに嬉しいことはありません……」
「私もです。おばあちゃんは、お幾つ?」
「七十七歳です」
「まだまだ、お若い。うんと、長生きしてください。いつまでも、若々しく、ドライブインの『看板娘』でいてください」
「まあ!」と言って、千秋は、弾けるように笑った。
清らかな求道心によって潤された肥沃な生命に、美しき笑みの花は咲き、幸の果実はたわわに実る。
伸一は、原稿用紙に一句を認めて贈った。
「いざ祈り 上春別の 長者たれ」
谷沢一家に、地域で信仰の実証を示してもらいたいという、伸一の熱願の句であった。