求道66  2014年8月30日

谷沢徳敬は、山本伸一に語った。
「母は、山本先生をわが家にお迎えするのだと言って、前々から準備し、祈り続けておりました。二階にお上がりください」
徳敬は、伸一を、座談会などの会場として提供している二階へ案内した。
仏壇の前には、真新しい紫色の座布団が置かれていた。
「母が、『先生に使っていただくのだ』と言って、縫ったものです」
老いた母親が、真心を込め、目をしばたたかせながら、一針一針縫い上げてくれたのであろう。
伸一は胸が熱くなった。彼は、徳敬に言った。
「では、一緒にお題目を三唱しましょう。真心にお応えするために、この座布団を使わせていただきます」
伸一は、感謝の思いを込め、谷沢一家の繁栄を願い、題目を唱えた。
千秋は、伸一を迎えることを思い描いて、部屋の畳替えもし、湯飲み茶碗等も用意していたという。
彼女は、伸一とは、会ったこともない。しかし、心のなかには、常に、信心の師としての伸一がいた。
よく、「もっと、もっと、山本先生のお心を知る自分になりたい」と語り、日々、真剣に唱題を重ねてきた。
そして、「今日も弟子らしく戦い抜きました」と、心の師に、胸を張って報告できる自分であろうとしてきた。
日蓮大聖人は、「若し己心の外に法ありと思はば全く妙法にあらず」(御書三八三p)と仰せである。
師もまた、厳として己心にいてこそ仏法である。師弟の絆の強さは、物理的な距離によって決まるのではない。
己心に師が常住していてこそ、最強の絆で結ばれた弟子であり、そこに師弟不二の大道があるのだ。
伸一は、谷沢千秋の真心を実感しながら、「ありがたいね。本当にありがたいね」と、何度も口にした。
徳敬は、二階の窓を開け、指をさした。
「あそこの建物が、ドライブインです。すべて母が、元気に取り仕切っています」