小説「新・人間革命」広宣譜43 2015年1月12日

山本伸一は、九州総合長を交代することになった鮫島源治に、厳しい口調で言った。
「信心には、ヒロイズムも自己陶酔も必要ありません。
幹部に自分が、自分がという自己中心的な考えがあれば、信心の軌道を踏み外して、勝手なことをしたりする。
結局は、大勢の会員に迷惑をかけ、広宣流布の組織を攪乱し、破壊する魔の働きとなる。
私は、君を、そうさせたくはない。
これを契機に、信心の原点に立ち返って、一兵卒の決意で、本当の仏道修行に励んでほしい。これは、信心の軌道を修正するチャンスです。
幹部にとって、最も大切なことは、自分は泥だらけになっても、どんなに屈辱を味わっても、仏の使いである学会員を、絶対に守り抜いてみせる、幸せにしてみせるという一念と行動なんです。
格好や見栄ではない。
もう一度、新しい決意で、一から信心を鍛え直す覚悟で組織を駆け回り、苦労に苦労を重ねて、人間革命していってもらいたい」 
それから伸一は、吉原力に視線を注いだ。
「吉原君は、どこまでも誠実に、謙虚に、皆と接していくことです。それによって、信頼を勝ち得ることができるんです。
信頼こそが強い人間の絆を結ぶ力になっていく」
吉原の入会は一九五七年(昭和三十二年)十二月、結核で自宅療養していた大学四年生の時である。
入会はしたものの、本気になって信心に取り組む気のない彼のもとへ、毎日のように勤行の指導や激励に通ってくれたのが、男子部の班長であった。
それによって吉原は奮起し、病を乗り越え、大学卒業後は建築金物販売会社に就職した。
また、第一線組織のリーダーである男子部分隊長になった。
その時、彼は誓った。
私が、信心に奮い立ったのは、班長が通って来て、日々、励ましてくれたからだ。家を訪ねてくれる回数に比例して、私も信心を学び、深めることができた。
今度は、私が、それをやる番だ!
励ましの連鎖が、人材群を生み出す。大切なのは、最初の一人の行動である。