小説「新・人間革命」大道 5 2015年2月16日

四国記念幹部会や婦人部懇談会など、四国研修道場での諸行事を終えた山本伸一は、夜更けて、「東京の歌」の作詞に取り組んだ。
彼は、歌詞を考えながら、東京が、全国、全世界の広宣流布の本陣として、さらに大きな飛躍を遂げていくためには、何が必要かを考えていった。
──東京は、人の層も厚く、多彩な人材が集っている。しかし、それは、ともすると、一人ひとりの責任感、使命感の希薄化を招きかねない面がある。
つまり、「自分ぐらいいなくても、どうにかなるだろ「う」「誰かがやるだろう」といった感覚に、陥ってしまいがちであるということだ。
また、東京には、活動経験の豊富な、古くからの幹部も多い。いつ、何が活動として打ち出されるかや、活動の手順も、たいていわかっている。
そのため、求道心、清新の息吹を失い、惰性化してしまいがちな傾向があることも否定できない。
伸一は、気づかぬうちに陥りがちな、こうした傾向を各人が打破して、生命を覚醒させる歌を作らなければならないと思った。
──その瞬間、彼の脳裏に、「感激」という言葉が浮かんだ。
「仏法の眼を開けば、すべては感激に満ちている。自分が地涌の菩薩として、広宣流布の大使命をもって、この時に、広布の本陣たる大東京に出現したこと。この地に大宇宙より雲集した同志と奇しくも巡り合い、久遠の誓いを果たそうと、大法戦を起こしたこと。
日蓮大聖人の御遺命たる世界広宣流布の時代の幕を、今、自分たちの手で開こうとしていること……。
一つ一つが不思議な、大感動の事実であり、感激以外の何ものでもない」
この「感激」というキーワードが定まると、歌の構想は、次第に固まっていった。
「私たちの日常の振る舞い一つ一つが、地涌の菩薩の乱舞の姿である。
そうだ、その一日を歌おう。朝の祈り、中天の燦たる光、夕陽のなかを走る友、満天の星……。歌詞は、四番までにしてもいいだろう」