小説「新・人間革命」大道 33 2015年3月20日

東濃文化会館での二回目の記念勤行会を終えた山本伸一は、会館の窓から外を見た。
土岐川の堤防を会館に向かって、歩いて来る人の列が続いていた。
彼は、中部の幹部に言った。
「三回目の勤行会を行いましょう。私は、会館に来てくださった方、全員とお会いし、勤行をします。何度でも行います」
そして、「聖教新聞」の同行記者に伝えた。
「今日、開催した勤行会の写真を、すべて明日付の紙面に掲載できないだろうか。東濃の皆さんに喜んでいただきたいんです。工夫してください」
それから彼は、御書を開き、真剣に眼を注いだ。次の勤行会で講義をするためである。
何事も、精魂を込めて、周到に準備してこそ成功がある。
伸一の体調は、中国方面から四国を経て中部に至っても、まだ万全ではなかった。しばしば発熱があった。
また、連日の猛暑が、彼の体力を消耗させていた。
熱気に満ちた会場で、全生命力を注ぎ込んで同志を励まし、指導すると、体中にびっしょりと汗をかいた。
そして、冷房の効いた場所に来ると、汗で濡れたシャツが体の熱を奪い、体調を狂わせた。
しかし、伸一は、これが、皆さんとお会いできる、人生でただ一度の機会かもしれないと思うと、一回一回の勤行会に、全力投球せずにはいられなかった。
何事にもがある。
「広布第二章」の前進は加速し、仏法の人間主義の新しき潮流をもって、地域、社会、世界を潤す時代を迎えたのだ。
そのなかでの、大切な同志との貴重な出会いである。
第二代会長・戸田城聖は、語っている。
「時にあい、時にめぐりあって、その時にかなうということは、生まれてきたかいのあるものであります」(注)
伸一は、という時を逃すまいと、固く心に決めていた。真剣勝負とは、一瞬に生命を燃焼し尽くすなかにあるのだ。
 
■引用文献
注 「時にめぐりあう喜び」(『戸田城聖全集4』所収)聖教新聞社