小説「新・人間革命」 革心47 2015年 6月24日

「長征」――それは、一九三四年(昭和九年)十月、蒋介石の国民党軍に、江西省瑞金の中央根拠地を包囲、猛攻撃された中国共産党軍が、陝西省北部へと移動していく大行軍をいう。大西遷ともいわれている。
行程は、広西、湖南、貴州、雲南、四川などの各省を経て、約一万二千五百キロメートルにわたった。
しかも、国民党軍と戦闘を続けながらの行軍である。
毛沢東朱徳、そして周恩来らの第一方面軍は、党職員や、その家族など合わせて八万六千余人であり、女性も、老人も、傷病者もいた。
鄧穎超は、病に侵されながら、この長征に加わった。担架で運ばれての行軍であった。
敵の攻撃を避けるために、移動は主に夜間に行われた。微熱、咳、血痰と、彼女の結核は癒えなかった。
しかし、担架を持ってくれている青年たちのためにも、断固、生き抜き、人民の時代を築かねばならぬと固く決意した。
彼女は、必死に考える。
今私にできることはないだろうか。私がすべきことは何だろう。
そうだ、今最も大事なのは、精神的に負けないことだ、勇気を奮い起こすことだ、みんなを励まして、団結を固めることだ(注)
鄧穎超は、病と闘いながらも、努めて明るく振る舞い、自身が体験してきた闘争の数々を語り、皆を勇気づけ、希望の光を注いだ。闘争を開始した初心を確認し合い、同志の心を鼓舞した。
彼女の人生の勝因は、自分に負けずに戦い続けてきたことにあったといえよう。
病に侵され、担架に身を横たえ、窮地に立たされても、その心は、決して屈しなかった。
彼女には、自身の闘争を先延ばしにして、状況が好転したら、何かしようという発想はなかった。「今」を全力で戦い抜いた。
いつか、ではない。常に今の自分に何ができるのかを問い、なすべき事柄を見つけ、それをわが使命と決めて、果たし抜いていくのだ。
そこに、人生を勝利する要諦もある。
 
■引用文献
注 西園寺一晃著『鄧穎超』潮出版社
 
■主な参考文献
西園寺一晃著『鄧穎超』潮出版社
『人民の母――鄧穎超』高橋強・水上弘子・周恩来 鄧穎超研究会編著、白帝社
ハン・スーイン著『長兄――周恩来の生涯』川口洋・美樹子訳、新潮社