小説「新・人間革命」 革心54 2015年 7月2日

「山本先生! 嬉しいです。お会いできる日を、指折り数えて待っていました!」
九月十七日夜、訪中団一行の歓迎宴が行われる人民大会堂の会場入り口で、中日友好協会の廖承志会長は、こう言って大きく両手を広げ、山本伸一を迎えた。
「廖先生! 『日中平和友好条約』の締結、大変におめでとうございます。遂に、廖先生の長年の苦労が報われましたね」
伸一も、廖承志も、共に平和友好条約の締結を悲願として、苦労を重ね、行動し続けてきた。
だからこそ、二人とも、その実現には、ひとかたならぬ喜びがあった。
同じ目的に進み、互いの思いと労苦を知るからこそ、感動もまた分かち合える。
立場は異なっても、それが「同志」といえよう。
廖承志は、隣にいた、柔和な笑みをたたえた老婦人を紹介した。
質素な濃紺の服に身を包んだ、この小柄な女性こそ、全国人民代表大会常務委員会副委員長であり、周総理の夫人として大中国を担う柱を支え続けてきた鄧穎超その人であった。
伸一は、彼女の差し出した手を、ぎゅっと握りながら言った。
「初めまして山本伸一です。お会いできて光栄です。この日を楽しみにしておりました。
周総理のご厚情に、深く感謝申し上げるとともに、亡き総理に、心から哀悼の意を捧げさせていただきます。
鄧穎超先生におかれましては、中国人民のために、お体を大切になさり、いつまでもご健康でいてください」
「ありがとうございます。私も、お会いできて嬉しく思っております」
歓迎宴に先立って懇談が行われた。
鄧穎超は、もの静かに語り始めた。
「山本会長を団長とする皆様の、このたびの中国訪問を熱烈に歓迎いたします。
中国と日本の平和友好条約の調印は、山本会長、また、公明党の方々などの多大なご尽力と切り離すことはできません。
私は、皆さん方をお迎えして、嬉しいだけでなく、感謝の気持ちでいっぱいなんです」