小説「新・人間革命」 革心53 2015年 7月1日

趙樸初副会長の話に、山本伸一は頷いた。
「おっしゃる通りです。仏の真意は何かを正しく知らなければ、混乱を招きます」
趙樸初は、ニッコリして言った。
「その点、創価学会の皆さん方は、仏法を正しく理解しています。
それは、民衆のなかに、仏法を展開し、人びとの生き方に、その教えを根付かせていることに表れています。
私は、四月に聖教新聞社を訪れた折、一九六七年(昭和四十二年)に行われた東京文化祭の記録映画を拝見しました。
仏法を生き方の基調とした、活気あふれる、躍動した民衆の姿に感動を覚えました。
本来、仏陀の教えは、民衆と結びついたものです。
したがって、民衆、衆生のなかに、その教えを弘め、それが、人びとの人格を磨き、生活、社会を繁栄させるものになっていかなくてはいけません。
そのことを、皆さんは、実践されてきた。この事実は、皆さんが仏法を正しく理解されていることの証明です。敬意を表します」
趙樸初は、仏教が単に学問研究の対象にすぎなくなってしまったり、儀式化し、慣習にすぎないものとなったりしていることを、深く憂慮していた。
それだけに、民衆のエネルギーが満ちあふれた創価学会の運動に、真実の生きた仏法の存在を感じていたようだ。
新しき時代・社会を建設し、革新していくには、その担い手である人間自身の精神の改革が不可欠である。
人間の精神が活性化していってこそ、社会も活性化し、蘇生していくからだ。宗教は、その人間の精神のバックボーン(背骨)である。
定陵から訪中団メンバーは、万里の長城に向かったが、伸一と峯子は宿舎の北京飯店に戻った。
彼には、新聞や雑誌など、さまざまな原稿の依頼があり、わずかな時間でも、その執筆にあてたかったのである。
人生の大闘争といっても、一瞬一瞬の時間を有効に使い、日々、なすべきことを着々と成し遂げていくことから始まる。