小説「新・人間革命」 革心60 2015年 7月9日

 
帰国前日の九月十九日、山本伸一は、午前九時半から人民大会堂で、副総理でもある李先念党副主席と会見した。
副主席とは初訪中の折、二時間余にわたって語り合っている。
伸一は、激務の日々を送る副主席の健康を気遣い、こう語り始めた。
「私は政治家ではありませんから、閣下も今日は、ゆっくりと、くつろぐようなお気持ちでいてください」
そして伸一が、副主席の来日を希望し、その予定について尋ねると、今のところ、予定はないが、「私としては一度は行きたいと思っています」との答えが返ってきた。
会見の会場に大拍手が響き渡った。
さらに、文化大革命についての質問に副主席は、こう答えた。
社会主義の建設が階級闘争である限り、激動はあり得ます。
しかし、今は、党も団結しています。
闘争はやめてはならないが、今後は、こうしたかたちは取らないでしょう」
また、現在、中国が進めている農業、工業、国防、科学技術の「四つの現代化」の柱は何かを尋ねた。
「まず農業です。第二に工業です。この二つの現代化が、先進的な科学技術の基礎の上に築かれなければなりません。
人間は、ご飯を食べなければ生きていけない。
中国では、ご飯を食べる口が八億をはるかに上回ります。
そのためにも、まず、農業の生産高を高めることが必要です。
農業は国民経済の基礎であり、工業は国民経済の導き手です。工業がなければ農業も十分に発展しない。
それには先進的な科学技術を必要とします。すべて、これを基礎にしないと現代的とはいえません」
そして、日本から科学技術などを学びたいとして、こう語った。
「留学生や研修生を貴国に送るとともに、こちらで講義をしていただくために、日本からも来ていただきたい」
教育は、国家建設の礎である。教育の交流は、共に未来を築く共同作業である。