小説「新・人間革命」 革心67 2015年 7月18日

 
答礼宴の最後に、訪中団が、心からの感謝の気持ちを込めて、日本語で「愛する中国の歌」と、中国語で「春が来た」を合唱した。
歌のあとで山本伸一は、鄧穎超に言った。
「明春、桜の満開のころ、鄧穎超先生が日本に来られることをお待ちしています」
大きな拍手が起こった。
続いて、伸一は、周志英を促した。
「あの歌を歌おうよ!」
「あの歌」とは、「敬愛する周総理」という、北京大学での交歓の折に、周志英が披露した中国の歌であった。
伸一は、鄧穎超への御礼として、ぜひ、聴いてほしかったのである。
よく通る中国語の歌声が響いた。
  
 ♪敬愛する周総理
 
 私たちはあなたを偲びます
 数十の春秋の風と雨を
 あなたは人民とともに
 真心は紅旗に映じ
 輝きは大地を照らす
 あなたは大河とともに永久にあり
 あなたは泰山のようにそびえ立つ
  
鄧穎超は、テーブルの上の一点を、じっと見つめるようにして聴き入っていた。
視線を上方に向けている廖承志の目には、うっすらと光るものがあった。
夫人の経普椿も、あふれる涙をナプキンで拭った。
料理を運んでいた人たちも、立ち止まって耳を傾けていた。
偉大な指導者への敬慕の念
が、皆、自然にあふれ出てくるのであろう。
伸一が今回の旅で、ただ一つ残念で寂しかったことは、既に周総理がいないことであった。
彼は、日中友好の永遠なる金の橋を築き、総理との信義に生き抜こうと、強く心に誓いながら、目を閉じて静かに聴き入っていた。
歌が終わった。万雷の拍手が起こった。
席に戻ってきた周志英に、鄧穎超は、「ありがとう!」と言って、ことのほか嬉しそうに手を差し伸べるのであった。
歌は魂の発露であり、心をつなぐ懸け橋となる。