小説「新・人間革命」 勝利島 22 2015年8月14日

 
佐田太一は、妻と共に信心を始めた。
佐田も、妻も、入会すると、無我夢中で題目を唱えた。苦境を脱しようと必死であった。
学会の指導通りに、折伏・弘教にも駆け回った。
すると、妻が苦しんできた心臓弁膜症による胸部の痛みや呼吸困難の症状が、次第に緩和されていったのである。
二人は、〝これが、功徳ということか!〟と思った。
御本尊に心から感謝した。
入会五カ月後、佐田は、信心への強い確信を胸に、生まれ故郷の天売島に戻る決意をした。
彼には、相変わらず多額の借金があり、取り巻く環境は、何も変わっていなかった。
ただし、心は、大きく変わっていた。
借金苦に堪えかねて、島を出た時とは異なり、胸には、〝俺が、天売島の広宣流布をするのだ! 島のみんなを幸せにするのだ!〟という、誓いの炎が燃え盛っていた。
天売島で、佐田は再び漁師を始めた。
そして、島中を弘教に歩いた。
島民は、皆、佐田のことをよく知っている。
代々の網元だったが、借金苦で〝行方をくらました男〟としてである。
折伏をすると、あざ笑われ、塩を撒かれもした。
人びとは、陰で囁きあった。
「佐田のオヤジは、遂に頭がおかしくなった。
今度は、わけのわからぬ変な宗教に取り憑かれてしまった。
惨めなものだ……」
狭い島のなかである。自分への批判は、すぐに耳に入ってくる。
悔しかった。地団駄を踏む思いであった。
島には、相談する幹部も、同志もいない。
歯を食いしばって耐えた。
彼は、懸命に唱題しながら、考えた。
〝まだ、借金も返せぬ貧乏な状態では、何を言おうが、誰も話を聞かなくて当然だ。
実証だ。実証を示す以外にない。
御本尊様! どうか、島の広宣流布をしていくために、経済革命させてください〟
実証なき言説は空しい。日蓮大聖人は、「道理証文よりも現証にはすぎず」(御書一四六八㌻)と、断固として仰せになっている。