小説「新・人間革命」 勝利島 21 2015年8月13日

 
佐田太一は、疑問をいだき続けてきた。
「自分は、青年時代から、人一倍、強い信仰心をもち、いろいろな信心をしてきた。
自分ほど真面目に信仰に励んできた者はいないとさえ自負している。
ところが、災厄が次々と襲い、食うや食わずの生活を送らねばならない。いったい、どうしてなのか!」
どん底の生活のなかで、彼は「神も仏もあるものか!」と思うようになっていた。
友人は、佐田の苦しい胸のうちを察するかのように、励ましの言葉をかけながら、宗教の教えに、高低浅深があることを語った。
「人生は、何を信じるかが大事なんです。
たとえば、去年の暦を信じて生活したら、どうなるか──すべてが狂い、社会生活は営めなくなる。
また、天売島を歩くのに、隣の焼尻島の地図を見て歩いたら、どうなるか。
正しい目的地には行くことができない。
宗教というのは、幸せになる根本の道を描いた地図みたいなものです。
正しい宗教を信じて、進んでいけば、必ず幸せになる。
それが、日蓮大聖人の仏法であり、その教え通りに実践しているのが創価学会なんです。
佐田さんは、これまで、別の島の地図を見ながら、歩いて来たようなものだ。
そして、迷路に入り込んでしまった。
だから、せっかく努力しても、努力しても、おかしな結果になってしまい、抜け出せずにいる。
それが、宿命ということなのかもしれません。
しかし、創価学会の信心は、間違いない。
その宿命を転換することができる信心なんです。
事実、私もそれを実感しています。
佐田さん。人生は、まだまだ、これからですよ。頑張って、必ず勝ちましょうよ」
佐田は、この時、四十六歳であった。
友人と話しているうちに、希望が湧いてきた。
よくわからないこともあったが、彼を信じて、学会の信心にかけてみようと思った。
仏法対話とは、希望を引き出し、勇気を引き出す、生命の触発作業である。
一九五五年(昭和三十年)五月、彼は、晴れて創価学会に入会した。