小説「新・人間革命」勝利島24 2015年 8月18日

佐田太一を診察した医師は、家族に、手の施しようがないので退院するように勧めた。
しかも、「このまま、寝たきりになってしまうこともあります」と言うのだ。
佐田は、自分に言い聞かせた。
〝俺が倒れたら、誰が、天売の広宣流布をやるんだ! 必ず全快してみせる! これからが、本当の勝負だ!〟
家に戻った彼は、首を固定するための装具を着けて、じっと寝ていなければならなかった。
全身にしびれがある。呼吸をすることさえ、辛く感じられた。
多くの人たちは、〝これで佐田も終わりだ〟と思ったようだ。
彼の耳にも、そんな話が聞こえてきた。祈った。必死に唱題した。
〝島の広布のために生き抜きたい〟という執念が佐田の生命を支えた。
二年がたち、三年がたった。どうにか歩けるまでに体は回復した。
広宣流布の使命に生きる人は、地涌の菩薩である。
ゆえに、その人の全身に大生命力が満ちあふれるのだ。
もう家に、じっとしてはいられなかった。
皆のために自分が「聖教新聞」を配ると言いだした。
首にコルセットをはめたまま、よたよたと歩き、家々を回った。
さらに、折伏を開始していった。
コルセット姿の佐田を見て、「まるで宇宙人だ」と噂し合う人もいた。
彼は、笑い飛ばしながら、こう言った。
「私は、一命を取り留めた。これが、既に功徳なんだ。
でも、これからますます元気になるから、今の姿をよく見ておきなさい」
佐田は、試練に遭うたびに、ますます闘魂を燃え上がらせていったのである。
そして、自ら宣言した通り、医師もさじを投げた怪我を、完全に克服したのだ。
この事故から、六年後の一九六八年(昭和四十三年)のことであった。
ある日、岩海苔を採るために、舟を出し、崖の下に着けた。岩に上がって作業を始めた。
その時、突然、崖の上から落下してきた、こぶし大の石が、彼の頭を直撃した。