小説「新・人間革命」 常楽6 2016年 1月8日

ガルブレイス博士は、インド赴任中の日々を記した『大使の日記――ケネディ時代に関する私的記録』と題する本を出版している。
その「緒言」に、キャサリン夫人の奮闘について、次のように綴った。
「家政、接待、広範にわたる儀典的な活動、在留アメリカ人に対する配慮、私のインドの友人や外交団の夫人や家族との交際、芸術的な催し、そして私が不在のばあいの機能を引継ぐものとしての大使の代理などは、すべて私の妻の任務であった。
彼女は暇をぬすんでヒンディ語の勉強さえして、その言葉で聴衆にわかるスピーチをするほどになった」(注1)
しかし、当時、博士は、そのことを、ほとんど知らなかったのである。
彼がそれを知るのは、夫人の手記が掲載されたアメリカの雑誌『アトランティック・マンスリー』の一九六三年(昭和三十八年)五月号を目にした時であった。彼は「その活動範囲に、一驚を喫したほどである」(注2)と記している。
邦訳出版された『大使の日記』には、「母は大したことはしない」と題した、夫人のこの手記も、「付録」として収められている。
そこには、夫人の日々の暮らしが克明に綴られていた。
――彼女は、使用人だけでなく、その家族の面倒もみた。
「われわれ全員の母親です」と慕われた。
その子どもの数は、時には五十人にもなった。
病気の時は看病し、もめごとを解決し、公平無私にかわいがる。
毎日、使用人にはお茶を与え、祭りの時には、奥さんたちに新しいサリーをプレゼントし、クリスマスにも贈り物などをした。
また、来客の接待、集会、記者会見、晩餐会など、一切を取り仕切る。
夫婦での出張もあれば、大使に代わって、急遽、講演しなくてはならないこともあったという。
夫人は、子育てもしながら、この激務をすべてこなしてきたのである。
御書には、信念を分かち合う夫と妻のチームワークを「鳥の二つの羽」「車の二つの輪」に譬え、何事も成就できる力だと教えている。
 
■引用文献
注1、2 ジョン・ケネス・ガルブレイス著『大使の日記』、西野照太郎訳、河出書房新社