小説「新・人間革命」 常楽12 2016年 1月15日

ハーバード大学での講演の翌日、山本伸一は妻の峯子、長男の正弘らと、同大学の近くの閑静な住宅街にあるガルブレイス博士の自宅を訪問した。
レンガ色の壁に、ピンク色の縁取りがなされた瀟洒な家であった。窓の外の木立には、愛らしいリスの姿も見えた。
この時、博士は、八十五歳になろうとしていたが、熱こもる語らいが展開された。
博士は、「対話」によって「平和」を生みだそうとしている伸一の信念に共感すると述べ、自身も絶対に戦争を繰り返してはならないという、信念と情熱と希望をもって生きてきたと、真情を吐露した。
会談では、「人間が真に満足し、人生を楽しみきっていける道をいかにして示していくか」などが話題となった。
伸一が「大切なのは『自他ともの満足』です」と言うと、博士は、「私はこの世界に、『対話』『利益』、そして『楽しみ』をもたらしたい」と決意を披瀝。
さらに、平和への希望を託すかのように、「知的な、そして平和のための対話を、どうか、これからも続けてください」と語るのであった。
博士は、「平和の問題について、また、人類の未来について、会長と語り合い、後世に残しておきたい」と要望していた。伸一にも同じ思いがあった。
最初の語らいから二十五年後の二〇〇三年(平成十五年)、総合月刊誌『潮』八月号から、九回にわたって、二人の対談が連載された。
それに加筆して、二〇〇五年(同十七年)九月、対談集『人間主義の大世紀を――わが人生を飾れ』が発刊されることになる。
その「発刊に寄せて」に、博士は綴った。
山本会長の「世界の人々の幸福を思う貴重な活動に対し、私は深い尊敬の念をもっております」。
一方、伸一は、「博士との親交は、わが人生のかけがえのない宝です。含蓄に富んだ英知の言説に、どれほど啓発されたか計り知れません」と記した。
対話によって平和への思いと思いがつながり、波となり、時代変革の新思潮となる。