第41回「SGIの日」記念提言「万人の尊厳 平和への大道」 (2016・1・26/27)㊦

世界各国の都市が連携強め低炭素社会への移行を加速
 
多くの市民の納得と誇りが推進力に
 次に私が、こうした国家間の協力に加えて呼び掛けたいのは、各国の都市が温暖化防止対策で連携し、パリ協定の推進を牽引する水先案内人の役割を担っていくことです。
 面積でいえば、地球の陸地部分のわずか2%にすぎない都市は、世界全体における炭素排出量の75%、またエネルギー消費の60%以上を占めるといいます。
 それだけ大きな環境負荷が世界の都市で生じているわけですが、この事実は半面で、「都市が変われば、世界が大きく変わる」可能性を示したものとはいえないでしょうか。
 確かに、密集性という都市の特徴は、さまざまな問題が一カ所に集中し、より大きな負荷を生み出す弱点ともなります。
 しかし一方で、省エネルギーの推進や再生可能エネルギーの導入といったように、都市が「低炭素社会」に向けて本格的に舵を切れば、その密集性によって効果が絶大なものとなることが期待されます。
 2年前に行われた「国連気候サミット」を契機に、世界の都市が独自の削減目標を立てて行動を起こす「首長誓約」と呼ばれる動きも始まっており、すでに400以上の都市が加わっています。
 ひとたび都市が新しい方向に動きだせば、変化が目に見える形で現れ、その手応えがまた、多くの市民に納得と誇りをもたらす。そこから市民の協力がさらに広がり、持続可能な社会に向けた勢いが増す――。
 こうした都市が持つ〝プラスの連鎖〟のダイナミズムこそが、パリ協定の達成に向けた各国の自主的な努力を軌道に乗せるエンジンになると思うのです。
 私は以前、国連の新目標を制定する出発点となった4年前のリオ+20(国連持続可能な開発会議)への提言で、多くの人が「これこそが私たちが果たすべき共通目標である」と納得し、そのために協力したいと思える目標を打ち立てるべきと訴えました。
 国連の新目標でテーマの一つに掲げられた「持続可能な都市」は、自分の足元での努力の積み重ねが、地球環境にとっての大きなプラスの変化につながるという意味で、まさに多くの人々が納得と誇りをもって取り組むことができる挑戦であると強調したい。
 
ハビタット3で対話フォーラム
 10月には、南米のエクアドルで第3回「国連人間居住会議」(ハビタット3)が行われます。
 各国政府だけでなく、地方自治体が公式に意見を表明できるこの会議は、それぞれの実績や教訓を分かち合いながら、「持続可能な都市」に向けた連携を国家の枠を超えて広げる絶好の機会となるものです。
 環境運動家のワンガリ・マータイ博士がケニアで始めた「グリーンベルト運動」も、1976年にカナダで行われたハビタット1に参加し、勇気づけられたことが契機となったといいます。
 「バンクーバー周辺の美しい環境や、私と同じように環境に対する懸念を募らせている人々とのふれあい」が、「失敗に落胆していた私が必要としていた気付け薬だった。私は再び元気をもらい、自分の考えをうまく実現させようと決意してケニアに帰ってきた」と(『UNBOWED へこたれない』小池百合子訳、小学館)。
 国や住む街が違っても、自分の子どもや孫たちの世代に〝より良い環境〟を残したいという気持ちに変わりはないはずです。
 先ほど私は、国レベルでの日中韓協力を呼び掛けましたが、ハビタット3の開催に合わせ、3カ国の地方自治体や環境分野で活動するNGO(非政府組織)の代表などが集まる形で、「環境協力のための自治体対話フォーラム」を開催してはどうでしょうか。
 昨年3月、仙台で第3回「国連防災世界会議」が行われた際、SGIの主催で、防災・減災分野で活動する日中韓の市民団体の代表らが参加するシンポジウムが開催されました。
 席上、シンポジウムを後援した日中韓三国協力事務局の陳峰事務次長が、「3カ国のうち、どこか1国で発生した災害は、他の2国にも同様に大きな苦しみを与える。ゆえに防災は、常に優先して協力すべき課題である」と強調しましたが、環境問題も同様の性質をもった課題であるといえましょう。
 日中韓3カ国の地方自治体の間では、合計で600を超える姉妹交流が結ばれています。この姉妹交流の絆を基盤としながら自治体同士の協力を広げ、互いの暮らす街が同じ「環境共同体」に属している意識を深め合っていくことは、日中韓3カ国の友好と未来にとって非常に大きな財産となっていくに違いないと、私は確信するのです。
 
生態系保全による防災・減災の活動
 二つ目の提案は、「生態系を基盤とした防災・減災」に関するものです。
 現在、世界で約8億人が飢餓や栄養不良に苦しむ中、食糧生産の基盤となる世界の土壌の3割が劣化した状態にあります。
 土壌は農業のみならず、水の貯蔵や炭素の循環をはじめ、生態系において欠くことのできないものでありながら、長い間、十分な注意が払われない状態が続いてきました。
 わずか1センチの厚さの土壌がつくられるまで100年以上も要するにもかかわらず、いったん劣化してしまうと簡単には再生できないのが、土壌なのです。
 また森林についても、減少率は鈍化していますが、毎年1300万ヘクタール(日本の面積の3分の1に相当)が失われているといわれ、生物多様性への影響など環境面で深刻な事態を招くことが懸念されています。
 国連の新目標でも、「土地の劣化の阻止・回復」や「持続可能な森林の経営」が掲げられており、生態系の保全や、炭素の貯留という温暖化防止の面でも、待ったなしの課題となっているといえましょう。
 近年、こうした生態系を守る取り組みは、防災の観点からも重要な意味を持つとの考え方が広がってきました。
 「生態系を基盤とした防災・減災」と呼ばれるもので、2004年にスマトラ島沖地震が起きた際、マングローブ林があった場所となかった場所との間で、津波による被害に大きな差があったことをきっかけに、注目されるようになったアプローチです。
 これまで砂丘を安定化させるための植林や、湿地を活用した水害防止、洪水被害を抑えるための都市緑化をはじめ、さまざまな取り組みが世界各地で進められてきました。
 特筆すべきは、その地域で暮らす人々による意欲的で継続的な関わりが何よりの支えとなる点です。
 5年前の東日本大震災によって被災した地域では、子どもたちも参加して、海岸防災林の再生や整備のために苗木を植える活動などが行われています。
 そうした活動は、地域における生態系の大切さを共にかみしめ合ったり、〝自分が植えた木が誰かの命を守ることにつながるかもしれない〟といった思いを広げる機会ともなってきているのです。
 このように皆で汗を流した体験の後、その場所を通るたびに目に映る〝風景〟は、以前にもまして「かけがえのないもの」として胸に迫ってくるのではないでしょうか。
 自分の日々の生活が、地域の生態系によって知らず知らずのうちに支えられているのと同じように、地域の環境や防災を支える上で自分の関わりが「なくてはならないもの」であることを心の底から実感する――そんな一人一人の思いが、年々、成長する一本一本の木と分かちがたく結びついていく中で、地域のレジリエンスは揺るぎない強さを帯びるようになるに違いないと、私は考えます。
 つまり、自分たちの手で地域の生態系を守ることがそのまま、地域の“未来”と“希望”を育むことにつながっていくのです。
 
若者と子どもは社会変革の主体
 折しも国連では、「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」に続く取り組みとして、「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム」が始まっています。
 そこでは、重点項目の一つに「若者の参加の支援」が挙げられていますが、私はその一環として、植樹をはじめとする「生態系を基盤とした防災・減災」の取り組みを、若者や子どもたちと一緒になって、各地域で積極的に推進していってはどうかと提案したい。
 昨年3月の第3回「国連防災世界会議」で採択された仙台防災枠組でも、災害リスクの削減には社会をあげての関わりと協力が必要であるとし、若者と子どもを〝変革の主体〟と位置付けて、防災に貢献できるような環境づくりが欠かせないと強調されています。
 これまでSGIは、他のNGOとともに「ESDの10年」の制定を呼び掛けた2002年以来、「変革の種子」展や「希望の種子」展などの環境展示を各地で行ってきました。
 この展示は、小・中学校や高校の生徒たちが数多く訪れる環境教育の場ともなってきたものです。
 私どもがESDを重視してきた理由も、人間と環境との切っても切れないつながりを学びながら、教育の重要課題として牧口初代会長が提起していた「応用の勇気」を、子どもから大人にいたるまで、それぞれの地域で力強く発揮する輪を広げていきたいとの思いからにほかなりません。
 このように地域を足場にした行動を積み重ねる中で、地球環境を守るための確かな軌道も敷かれていくのではないでしょうか。
 
武器貿易条約への批准促進で紛争やテロの拡大を防止
 
通常兵器の拡散が招いた甚大な被害
 最後に第三の柱として、軍縮核兵器禁止に関する提案をしておきたい。
 一つ目は、人道危機の悪化や各地で相次ぐテロ行為の背景にある「通常兵器の拡散」に歯止めをかけるための制度強化です。
 紛争地域に大量に流入した拳銃や自動小銃などの小型武器によって、毎年、世界で非常に多くの人たちが命を落としています。
 この〝事実上の大量破壊兵器〟とも呼ばれる小型武器をはじめ、戦車やミサイルなど通常兵器の取引を包括的に規制する武器貿易条約=注6=が、2014年12月に発効しました。しかし、現在の批准国は79カ国で、焦点となる武器移転の報告制度のあり方についても合意をみていません。
 昨年8月、メキシコで第1回締約国会議が行われましたが、報告内容を一般に公開するのか、対象となる武器はどこまで範囲が及ぶのかなど、多くの点で意見が完全には集約できず、結論が持ち越されることになったのです。
 武器取引の規制は、21世紀の世界の平和を展望する上で決して放置することのできない課題として、私も1999年以来、毎年の提言などで繰り返し訴えてきたテーマでした。
 難民問題が深刻化する今、この条約を基盤にして通常兵器の蔓延に終止符を打つことが、ますます切実な課題となっています。
 多くの武器の存在が、紛争の泥沼化を招く要因となり、多くの人々を難民状態に追いやる状況を生み続けているだけでなく、紛争が終結しても再燃の恐れが残るために、人々が安心して帰還する道までも塞いでしまうのです。
 なかでも小型武器は、持ち運びや取り扱いが容易であるため、子どもたちが兵士として動員される状況も招いています。
 その結果、世界で30万人もの子どもたちが、兵士として戦闘に参加させられ、命を落としたり、心に深い傷を負っているのです。
 また、各地で相次ぐテロの拡大を防ぐ上でも、通常兵器の取引を厳格に規制することは避けて通れない取り組みです。
 これまで、テロ防止のための条約が数多く整備されてきましたが、武器貿易条約との相乗効果によって、テロ防止の体制を強化することが急務ではないでしょうか。
 紛争の長期化や難民の増大に加え、子ども兵士やテロ問題の背景にあるのが、通常兵器の蔓延にほかならず、武器貿易条約を柱に、各地で高まる〝憎しみと暴力の連鎖〟を押しとどめる防波堤を築き上げねばならないと訴えたいのです。
 国連の新目標でも、武器取引は「暴力、不安および不正義を引き起こす要因」であるとし、2030年に向けて違法な武器取引を大幅に減少させることが打ち出されました。
 私は、この目標を軌道に乗せる誓いの証しとして、各国が武器貿易条約への批准を早急に果たしていくことを呼び掛けたい。
 また、報告制度についても、情報の一般開示や、武器取引の数量の明記など透明性を十分に確保し、条約の実効性を運用面でも高めることを望むものです。
 
原爆投下70年を機に高まった核なき世界を求める連帯
 
合意なく閉幕したNPT再検討会議
 二つ目の提案は、核兵器の禁止と廃絶に関するものです。
 広島と長崎への原爆投下から70年となった昨年、ニューヨークの国連本部でNPT(核拡散防止条約)再検討会議が行われましたが、最終合意を得られないまま閉幕しました。
 2010年の再検討会議での最終文書で、核兵器使用の非人道性と国際人道法の遵守への言及が盛り込まれて以来、3回にわたって「核兵器の人道的影響に関する国際会議」が開催されるなど、非人道性への懸念が幅広く共有されるようになりました。
 しかしながら、今回の会議でも核保有国と非保有国との溝は依然として埋まらず、この歴史的な節目にNPT加盟国の総意としての合意が実らなかったことは、極めて残念な結果と言わざるを得ません。
 それでも、希望が完全に失われたわけではありません。注目すべき動きが、さまざまな形で起こっているからです。
 その動きとは、①核問題を解決するための連帯を誓う「人道の誓約」の賛同国が拡大していること、②昨年末の国連総会で事態の打開を求める意欲的な決議がいくつも採択されたこと、③市民社会核兵器の禁止と廃絶を求める声が高まる中、信仰を基盤にした団体による取り組みや、若い世代による行動が広がっていること、であります。
 このような新しい動きを突破口に「核兵器のない世界」への道筋を描き出し、具体的な行動をもって実現に導く挑戦を開始しなければならないと訴えたい。
 
一切を無にする非人道性の極み
 今月6日、北朝鮮が核実験を行う中、核拡散の脅威が高まり、国際社会の懸念が強まっています。
 どの地域であれ、ひとたび核兵器が使用され、核攻撃の応酬が始まるような事態が起これば、どれほど多くの人々が命を奪われ、後遺症に苦しむことになるのか計り知れません。
 そればかりか、山積する地球的な課題に対し、どれだけ努力を尽くしていったとしても、すべて一瞬にして無に帰してしまう元凶となりかねないのが、いまだ世界に1万5000発以上も存在する核兵器であるといってよい。
 例えば、難民問題一つをとってみても、核兵器の爆発による影響は国境を越えて非人道的な被害を及ぼすだけに、6000万人という現在の世界の難民の数をはるかに上回る、数億もの人々が住み慣れた場所から逃れ、避難生活を強いられる恐れがあります。
 また、わずか1センチの厚さを形成するのに最長で1000年を要するといわれる土壌を守るために、どれだけ努力を重ねたとしても、その土壌が核爆発によって広範囲にわたり汚染されてしまいかねません。
 さらに最近の研究によれば、核攻撃の応酬が局地的に行われただけでも、深刻な気候変動が生じることが予測されており、「核の飢饉」と呼ばれる食糧危機が起こるとともに、人間の生存基盤である生態系に甚大な影響が及ぶことへの警鐘が鳴らされています。
 これまで貧困や保健衛生の改善のために積み上げてきた国連のミレニアム開発目標の成果も、その後継として始まった国連の新目標の取り組み――例えば、防災や持続可能な都市づくりにしても、あらゆる取り組みの意味を根底から突き崩してしまうのが、核兵器の存在なのです。
 こうした破滅的な末路が避けられず、計り知れない犠牲を世界中に強いることになったとしてもなお、核兵器によって担保しなければならない国家の安全保障とは一体何でしょうか。
 国を守るといっても、多くの人々に取り返しのつかない被害を及ぼす結果を前提に組み上げるほかない安全保障とは、そもそも何を守るために存在するのでしょうか。それはつまるところ、本来守るべき民衆の存在を捨象した安全保障になりはしないでしょうか。
 現代まで続く軍事的競争の端緒となった20世紀の初頭(1903年)に、ある分野での競争が目的に適う手段として機能しない状態が続くと、競争の形式や質的な転換が迫られるようになると分析していたのが、私どもの先師である牧口初代会長でした。
 「交戦漸く久しきに亘れば、内国諸般の方面に影響を及ぼし、其極《そのきわみ》、国力の疲弊は免るべからざれば、其れによりて得る所は容易に喪《うしな》う所を償《つぐな》う能《あた》わず」(『牧口常三郎全集』第2巻、第三文明社、現代表記に改めた)
 牧口会長がこう指摘していた軍事的競争の限界は、第1次世界大戦と第2次世界大戦を経て、冷戦時代から現代にいたるまでの核軍拡競争によって、行き着く所まで行き着いてしまったのではないでしょうか。
 
国連の公開作業部会で一致点を見いだし核兵器禁止の交渉開始を
 
CTBTの制度が果たす人道的貢献
 実際、非人道性の観点からも、軍事的な有用性の面からも、核兵器が〝使うことのできない兵器〟としての様相を一層強めていく中で、軍事的競争の限界から生じた「人道的競争への萌芽」ともいうべきものが、一つの形を結ぶまでになってきています。
 それは、CTBT(包括的核実験禁止条約)の採択を機に誕生した国際監視制度が、さまざまな形で果たしてきた貢献です。
 条約は今なお、残り8カ国の批准が得られず発効にいたっていませんが、核爆発実験を探知する監視制度は、条約機関(CTBTO)の準備委員会によって整備されてきました。
 先日の北朝鮮の核実験をめぐる地震波の検知や放射性物質の観測のような本来の役割に加えて、最近では、世界中に張りめぐらされた監視網を活用して、災害の状況や気候変動の影響を幅広くモニターする活動なども行われるようになっています。
 例えば、海底地震の探知によって津波警報を早期に発令できるように支援したり、火山噴火の状況を監視して航空機のパイロットへの警戒情報につなげたり、大規模な暴風雨や氷山の崩壊を追跡するなど、〝地球の聴診器〟としての重要な役割を担ってきました。
 国連の潘基文事務総長が、「CTBTは、まだ発効していないうちから命を救っています」(IPS通信「核実験を監視するCTBTOは眠らない」、昨年6月17日)と功績を称えたように、核軍拡と核拡散に歯止めをかけるための制度が、多くの生命を守るという人道的な面でも欠くことのできない存在となっているのです。
 条約採択から20周年となる本年、残りの8カ国が一日も早く批准を果たし、CTBTを名実ともに力強く機能させ、核実験が二度と行われることのない世界への道を開くよう、あらためて呼び掛けたい。
 そして、核問題解決への取り組みを加速させ、軍縮の促進はもとより、CTBTの採択を土台に生まれたこの活動のような「世界の人道化」に向けた潮流を、本格的に強めていくべきではないでしょうか。
 
民衆の犠牲を前提にした安全保障
 かつて、冷戦対立の激化で核開発競争がエスカレートする中、私の師である戸田第2代会長は「原水爆禁止宣言」(1957年9月)を発表し、次のように訴えました。
 「核あるいは原子爆弾の実験禁止運動が、今、世界に起こっているが、私はその奥に隠されているところの爪をもぎ取りたい」(『戸田城聖全集』第4巻)
 つまり、核実験の禁止を求める世界の人々の切実な声に共感を寄せつつ、さらにそこから踏み込んで、多くの民衆の犠牲の上にしか成り立たない安全保障の根にある生命軽視の思想を克服しない限り、本当の意味での解決はありえないことを強調したのです。
 この師の叫びを胸に、私は、核問題の解決は核兵器保有の「奥に隠されているところの爪」を取り除くこと――すなわち、「目的のためには手段を選ばない」「他国の民衆の犠牲の上に安全や国益を追い求める」「将来への影響を顧みず、行動をとり続ける」といった現代文明に深く巣食う考え方を転換し、世界を人道的な方向に向け直す挑戦にほかならないと考え、行動を続けてきました。
 地球上に核兵器が存在する限り、核抑止力を保持し続けるしかないといった考え方が、核保有国やその同盟国の間に、いまだ根強くあります。
 しかし、核抑止力によって状況の主導権を握っているようでも、偶発的な事故による爆発や誤射の危険性は、核兵器を配備している国の数だけ存在するといってよい。
 その脅威の本質から見れば、核兵器保有が実質的に招いているのは、自国はおろか、人類全体の運命までもが〝核兵器によって保有されている〟状態ではないでしょうか。
 核兵器の威嚇と使用に関する違法性が問われた国際司法裁判所の勧告的意見において、NPT第6条の規定を踏まえ、「すべての側面での核軍縮に導く交渉を誠実に行い、かつ完結させる義務が存在する」との見解が示されてから、今年で20年を迎えます。
 にもかかわらず、核軍縮の完結の見通しが一向に立たないどころか、すべての保有国が参加する形での誠実な交渉が始まっていない現状は、極めて深刻であるといえましょう。
 
「人道の誓約」と意欲的な国連決議
 こうした状況の打開を求めて、昨年のNPT再検討会議への提出以来、賛同国が広がっているのが「人道の誓約」です。
 「核兵器を忌むべきものとし、禁止し、廃絶する努力」を、国際機関や市民社会などと協力して進める決意を明記した誓約には、国連加盟国の半数を優に超える121カ国が参加するまでになっています。
 その誓約の中で、早急に開始すべき具体策として提起されているのが、核兵器の禁止および廃絶に向けた法的なギャップを埋めるための効果的な諸措置を特定し、追求することです。
 昨年の国連総会でも、その追求を呼び掛ける決議がいくつも提出される中、効果的な措置について実質的な議論をするための公開作業部会の開催を求める決議が採択されました。
 決議では、ジュネーブで年内に行われる公開作業部会を「国際機関や市民社会の参加と貢献を伴って招集すること」と併せて、「全般的な合意に到達するための最善の努力を払うこと」が明記されています。
 NPT再検討会議での停滞を乗り越えて、実りある議論を行い、国際司法裁判所が勧告していた「核軍縮に導く交渉を誠実に行い、かつ完結させる」道を何としても開くよう、強く呼び掛けたい。
 非人道性の観点からも、特に私は、①核報復のための警戒態勢の解除、②〝核の傘〟からの脱却、③核兵器の近代化の停止、の3項目について、市民社会の声も踏まえながら議論を進めることを提案したい。
 最初の2点について言えば、非人道性の観点からも軍事的な有用性の面からも、核兵器が実質的に〝使うことのできない兵器〟となっている状況を踏まえ、まずもって着手すべき課題だと考えるからです。
 2度の世界大戦を機に、各国が開発を競った化学兵器生物兵器が、その非人道性ゆえに、どの国にとっても〝使うことが許されない兵器〟となった歴史を、今一度、想起すべきではないでしょうか。
 以前、アンゲラ・ケイン前国連軍縮担当上級代表もこう訴えていました。
 「どれだけの国が今日、自らが『生物兵器保有国』であることや『化学兵器保有国』であることを誇るでしょうか。攻撃か報復であるかにかかわらず、いかなる状況下であれ、腺ペストやポリオが兵器として使用されることが合法であると、誰が論じているでしょうか。私たちが、〝生物兵器の傘〟について話をすることがあるでしょうか」(2014年4月、ニュージーランドのビクトリア大学での講演)
 何より、軍事・安全保障上の核兵器の役割低減は、2010年の再検討会議での最終文書でも、保有国が速やかに取り組むべき課題の一つとして明確に掲げられていたものでした。
 その意味からも注目すべきは、昨年、ブラジルなどが国連総会に提出した決議で、核兵器の役割を低減させる取り組みを「核保有国を含む地域同盟の一員であるすべての国」に奨励したことに加え、日本が主導した決議においても、「関係する加盟国」に対して役割低減に向けた見直しが呼び掛けられた点です。
 この総会決議を主導した日本は、「関係する加盟国」の先頭を切る形で、〝核の傘〟による安全保障からの転換に着手すべきではないでしょうか。
 G7(主要7カ国)のサミットに先立ち、4月に広島で外相会合が行われますが、核兵器の非人道性に関する議論をはじめ、北朝鮮の核開発などの拡散防止の問題や、北東アジアの非核化に向けた核兵器の役割低減についても議論を行うことを強く望むものです。
 
核開発と近代化が世界に及ぼす弊害
 3点目の「核兵器の近代化」がもたらす問題については、昨年の提言でも警鐘を鳴らしましたが、核兵器の維持のために年間1000億ドル以上もの予算を費やし続けることにより、結果として〝地球社会の歪み〟を半ば固定化する恐れがあることです。
 南アフリカ共和国などが提案した総会決議でも、この点に関し、「人間の基本的ニーズがいまだ充足されていないこの世界では、保有核兵器の近代化に充てられる膨大な資金は、このような目的でなく持続可能な開発目標を達成するために振り向けることができる」(「核兵器・核実験モニター」第482―3号)と、提起されたところでした。
 このまま核兵器の近代化を進めることは、次の世代やそのまた次の世代まで、核兵器の脅威にさらされることを意味するだけではありません。核兵器が使用されない状態が続いたとしても、国連の新目標を達成するための道を閉ざしかねず、〝地球社会の歪み〟が今後も続く事態を意味するのではないでしょうか。
 「核軍縮は国際的な法的義務であるのみならず、道徳的・倫理的至上命題である」(同)とは、総会決議の提案にあたって南アフリカ共和国の代表が訴えた言葉であります。
 その思いは、原爆投下によって筆舌に尽くしがたい苦しみを味わってきた被爆者や、核開発と核実験の影響で被害を受けた各地の〝ヒバクシャ〟をはじめ、「人道の誓約」に賛同した国々、そして平和を求める多くの人々の一致した思いではないでしょうか。
 私どもSGIも、昨年のNPT再検討会議で発表された「核兵器の人道的結末に対する信仰コミュニティーの懸念」と題する共同声明に加わり、キリスト教ユダヤ教イスラムなどの各団体の代表とともに、次のようなメッセージを発信しました。
 「核兵器は、安全と尊厳の中で人類が生きる権利、良心と正義の要請、弱き者を守る義務、未来の世代のために地球を守る責任感といった、それぞれの宗教的伝統が掲げる価値観と相容れるものではない」
 「核兵器を禁止する新たな法的枠組みに関する多国間交渉について、すべての国々に開かれた、いかなる国も阻止できない場における、これ以上の遅滞ない開始を訴える」
 核開発競争は、軍事面でも意味を失いつつあるどころか、保持し続けるだけで世界に深刻な負荷を与え続けるという意味で、かつて牧口初代会長が軍事的競争の限界を論じていたように、実質的に破綻をきたしているとの認識に立つべきだと思うのです。
 年内にジュネーブで行われる公開作業部会で、「核兵器のない世界の達成と維持」のために必要となる効果的な措置をリストアップし、国連のすべての加盟国が取り組むべき共同作業の青写真を浮かび上がらせることができるよう、建設的な議論を行うことを切に希望するものです。
 そして、2018年までに開催されることになっている「核軍縮に関する国連ハイレベル会合」を目指し、核兵器禁止条約の締結に向けた交渉開始を実現に導くことを訴えたい。
 
青年世代の誓いの深さが人類の未来を決する鍵に
 
世界青年サミットを継続的に開催
 明年は、戸田第2代会長の「原水爆禁止宣言」発表から60周年にあたります。
 この宣言を原点に活動を続けてきたSGIとしても、核兵器のない世界への潮流をいよいよ揺るぎないものに高めていきたい。
 そして、多くの国と市民社会が力を合わせ、民衆のイニシアチブによる“国際民衆法”としての意義も込めながら、核兵器の禁止と廃絶を何としても実現したいと決意するものです。
 「核兵器は過ぎ去った時代の象徴でありながら、今も現実の世界に甚大な脅威を突きつけています。しかし、私たちが紡いでいく未来には核兵器の居場所などありません」
 昨年8月、広島で行われた「核兵器廃絶のための世界青年サミット」で発表された「青年の誓い」の冒頭の一節です。
 SGIなど6団体からなる実行委員会が主催し、23カ国から青年が集ったサミットには、アフマド・アレンダヴィ国連事務総長青少年問題特使も出席し、被爆体験の継承や同世代の意識啓発をはじめ、人類共通の未来を守るための行動が誓い合われました。
 その成果は、国連総会第1委員会の関連行事として10月にニューヨークで行われた報告会でも発表され、若い世代が核兵器のない世界の実現に向け、国連や各地域でどのように行動し、問題解決のために参画できるかが議論されました。
 今後も志を同じくする人々や団体とともに、「核兵器廃絶のための世界青年サミット」を継続的に開催していきたいと思います。
 「核兵器の廃絶は私たちの責務であり、権利だ。核廃絶のチャンスが失われるのを、もはや黙って見過ごしはしない」
 「私たち青年は、あらゆる多様性と深い団結のもと、この目標の実現を誓う。私たちは『変革の世代』なのだ」
 国の違いを超えて青年たちが広島で分かち合った誓いが、世界に大きく広がっていけば、乗り越えられない壁などなく、実現できない目標などありません。
 若い世代の心に脈打つ誓いの深さこそが、核兵器によって多くの生命と尊厳が踏みにじられる世界ではなく、すべての人々が平和的に生き、尊厳を輝かせていくことのできる世界を築く何よりの礎なのです。
 私どもSGIは、「変革の世代」である青年の連帯を基盤としながら、核兵器の禁止と廃絶とともに、国連の新目標の達成を後押しし、「誰も置き去りにしない」世界への軌道を確かなものにすることを、ここに固く誓うものです。