小説「新・人間革命」 力走30 2016年4月28日

十二月三日、三重研修道場では全国県長会議が行われ、「人材育成の年」となる
明年の具体的な活動について協議が行われた。
山本伸一は、関西総合婦人部長になった栗山三津子のことが、気がかりで仕方がなかった。
これまで手紙などを通して励ましを重ねてきたが、さらに元気づけたかった。
この夜、伸一は、妻の峯子に語った。
「栗山さんは、入院して、癌の手術を受けるとのことだが、きっと寂しい思いをしているにちがいない。
彼女は、女子部時代から関西の中心として頑張り、ずっと、関西広布に走り続けてきた人だ。
必ず乗り越えることができるよ。
まず『闘い抜いたあなたを、御本尊が、諸天善神が、守らないわけがない。しっかり治療に専念することです』と伝えてほしい。
しかし、栗山さんのことだから、きっと、みんなが必死で活動しているのに、自分だけ病院で寝ているなんて、申し訳ないと考えてしまうだろう。
だから、さらに、こう伝えてもらいたい。
『各県の婦人部長は、皆、忙しくて、ゆっくり唱題する時間がないので、あなたが皆の分まで題目を送ってください。
それが使命です。早く元気になって帰って来てください。
私たち夫婦は、あなたに題目を送ります』」
翌四日は、伸一たちが三重を発ち、高知へ向かう日であった。彼は、県長会議の参加メンバーや、地元・白山の学会員と記念撮影をするなど、皆の激励に余念がなかった。
栗山が、峯子のところへあいさつに来た。
「今日、大阪に戻って入院いたします」
峯子は、伸一の言葉を伝え、「絶対に大丈夫ですよ」と励まし、固い握手を交わした。
栗山は、伸一が案じていた通り、大事な時に、広宣流布の陣列を離れなければならない自分が許せず、わびしい思いをいだいていた。
しかし、「皆の分まで題目を」との言葉に救われた気がした。勇気が湧いた。
励ましとは、相手の身になって考え抜き、苦悩を探り当て、希望の光を送る作業だ。