小説「新・人間革命」 力走42 2016年年5月13日

山本伸一は、午後三時過ぎ、高知駅から急行列車に乗り、土佐清水市の高知研修道場へと向かった。
車窓には、小高い山々が連なっていた。暦のうえでは、既に冬だというのに、美しい深緑の山並みが輝き、南国土佐を感じさせた。
列車が須崎を過ぎると、目の前に太平洋の青い海原が開けた。
しかし、ほどなく再び山間部に入った。
短いトンネルを幾つもくぐって、午後五時前、土讃本線の終点・窪川駅に停車した。
列車は、そのまま中村線に乗り入れ、さらに四十分ほどして終点の中村駅に到着した時には、夜の帳に包まれていた。
ここから先は、車での移動である。まだ一時間半ほどはかかるという。
車のヘッドライトが、夜道の両側に生い茂る木々を照らしていた。伸一は、同乗した副会長で四国総合長の森川一正に尋ねた。
「山また山だね。草創期の同志たちは、どうやって学会活動をしてきたんだろうか」
「はい。昭和三十年代の半ば、中村の辺りから、愛媛との県境にある西土佐村の口屋内や奥屋内まで、いつも自転車で通ったという地区部長もおります。
訪問したお宅から帰る途中で、夜明けを迎えることも、たびたびあったそうです。
しかし、行けば喜んでくれる同志の顔が忘れられず、懸命にペダルを漕いだと、嬉しそうに語っておりました。
それが誇らかな思い出になっているそうです」
伸一は、感嘆しながら言った。
「信心の世界というのは不思議なもので、苦労すればするほど、それが、最高の思い出になる。苦労は、すべて報われるからです。
真心をもって友の激励に通い、発心することを祈り続ければ、どんな状態にある人も、いつか、必ず立ち上がる時がくるものです。
また、仮に、そうならなかったとしても、相手のために尽くした分は、すべて自身の功徳、福運となって返ってくる。
それを実感できるのが信心の世界なんです」
インドの英雄マハトマ・ガンジーは「努力そのものが勝利なのだ」(注)と語っている。
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 『マハトマ・ガンジー全集31巻』インド政府出版局(英語)