小説「新・人間革命」 力走62 2016年6月6日

山本伸一は、任用試験の会場を提供してくれた、保育園の園長である高原嘉美の自宅も訪問した。
試験会場を提供してもらったことに心から感謝を述べ、用意していた色紙に、「光福」などと揮毫して贈った。
高原は、自分の四十余年の人生を振り返りながら、その歩みを語っていった。
彼女は、結婚後、貧乏と家庭不和に悩みながら幼子を育て、半身不随の舅の面倒をみた。釣瓶で水を汲み、薪でご飯を炊き、家族の朝食の世話をする。
自分は残り物を口に入れると、農作業に飛び出す毎日であった。
身も心も、へとへとに疲れ果て、なんの希望も感じられなかった。
その時、実家の母の勧めで入会した。
義父母からは「嫁が先祖代々の宗旨を変えるとはもってのほかだ」と叱られた。
近所からは「あそこの嫁がナンミョーに入った」と嘲笑され、村八分にもあった。
信心をやめようと思い悩む日が続いた。しかし、学会の先輩が足繁く訪ねて来ては、「この信心は正しく、力があるから、魔が競ってくる。
あなたが変われば、必ず環境も変わる」と確信をもって指導してくれた。 励ましによって、人は師子となる。
よし! どんなに苦しくとも頑張ろう。この信心で、宿命を転換していくんだ!
高原は、信心で、逆境を一つ一つ乗り越えていった。そのたびに確信が増した。
ある時、持っていた土地が高く売れた。
それを資金にして、家の周りの土地を購入し、保育園をつくろうと思った。
地域の人たちの要請であった。保育園の開園は、順調に進んだ。
献身的な職員にも恵まれた。地域の人びとも、さまざまに尽力し、守ってくれた。
高原は、喜びを?み締めながら語った。
「山本先生! 入会前には、思ってもいなかった幸せな境涯になれました」
「断固として信心を貫いてきたからです。だから、周囲の方たちも協力してくれるんです。心こそ、一切に勝利する力なんです」
妙楽大師は「必ず心の固きに仮って神の守り則ち強し」(御書一一八六ページ)と。