小説「新・人間革命」 清新4 2016年年6月18日

一月十一日、山本伸一は、岩手県の水沢の地を踏んだ。
水沢は、北から南に北上川が流れ、江戸時代には伊達氏の家臣・留守(水沢伊達)氏の城下町として栄え、南部鉄器の生産でも知られる。
また、江戸末期の蘭学者高野長英をはじめ、東京市長などを務めた政治家・後藤新平、さらに、首相を務めた斎藤実など、何人もの著名な人びとを育んできた。
伸一が、水沢を訪れたのは、新しい同志を励まし、新しい岩手の未来を開きたかったからである。水沢訪問は六年半ぶりであった。
午後三時半過ぎ、彼の乗った車が水沢文化会館に到着した。この会館は、前年の十二月に完成した、鉄筋コンクリート三階建ての白亜のモダンな新法城であった。
玄関前で、岩手県長の南勝也らが一行を迎えた。
車を降りるなり、伸一は言った。
「いい会館だね。いよいよ岩手の時代が来たよ。戦いを起こそうじゃない 
南が恰幅の良い体から声を絞り出すように、「はい!」と決意を込めて答えた。
気温は氷点下であったが、冬の東北にしては珍しく雪はなかった。
伸一は、玄関を入り、ロビーを歩きながら県の幹部らに言った。
「私は、昨年、日本各地を回りました。
大阪は新・大阪の戦いを開始し、永遠の常勝の都を創ろうと必死だ。兵庫は二十一世紀の不落の広布城を築くのだと、皆が燃えに燃えている。頼もしい限りです。
中部で会った愛知の代表も、闘志満々だった。堅塁の気概にあふれている。
この関西、中部とともに大奮闘しているのが九州であり、その先駆が福岡だ。大変な勢いがある。さらに前進、勝利するだろう。
そして、いよいよこれからは東北が広宣流布の大舞台に躍り出る時であり、その牽引力となるのが岩手です。
新時代の建設は、真面目で忍耐強いといわれる岩手人によってこそ、成し遂げられる事業であると私は思う」