小説「新・人間革命」 清新15 2016年年7月1日

山本伸一は、人生は苦悩との闘争であることを述べていった。
「経文に『三界は安きこと無し 猶火宅の如し』(法華経一九一ページ)とあるように、現実社会は、常に一寸先は闇といえます。非情であり、残酷です。
ゆえに、何があっても負けない自分を築き、わが生命の宮殿を開き、幸福を実現していくために仏法があるんです。
人生とは、さまざまな悩み、迷いを抱えて、それを乗り越え、乗り越え、生きていくものであるといえるかもしれない。
しかし、その苦悩に絶望し、挫折してしまう人もいる。
御本尊を持った皆さんは、煩悩即菩提、生死即涅槃の法理に則り、いかに絶望の淵に立とうが、敢然と頭を上げて、不死鳥のごとくわが使命に生き抜いていただきたい。
悩める友を包み励まし、共々に幸福の道を歩み抜いていっていただきたいの
であります」
最後に、彼は強く訴えた。
「学会は、人間と人間とが麗しく生き抜いていくためにある。友を励まし、元気づけ、凍てた心の大地に幸せの花を咲かせる人間のスクラムです。
この尊い信心の和合の世界が壊されてはならない。
広宣流布のため、自他共の幸せのため、社会のために!」
皆が決意を新たにした。わが使命を自覚した。寒風のなか、胸を張り、はつらつと、地域広布の新しき歩みを踏み出したのだ。
十一、十二日と、二日間にわたった行事には、久慈、宮古、釜石、大船渡、陸前高田など三陸からも、多数の同志が参加した。
そのなかの一人に、釜石から駆けつけた二十六歳の男子部大ブロック長の元藤裕司がいた。
彼は、幼少期に一家で入会。小学三年の時に父親が他界した。
中学を卒業すると建築会社に務め、定時制高校に学んだ。
就職して十余年になるが、会社の経営状況は思わしくなく、肉体労働で腰も痛めていた。
未来に希望を見いだせず、暗澹としていた。
しかし、水沢の勤行会に参加し、自身の使命に目覚めた。心を覆っていた雲が晴れた。
使命に燃える時、わが胸中に太陽は輝く。
 
小説『新・人間革命』語句の解説
◎煩悩即菩提など/煩悩即菩提の煩悩とは、衆生の心身を煩わし悩ませる因となる、さまざまな精神作用のこと。法華経以前の教えでは、煩悩は苦悩をもたらす因であり、それを断じ尽くして菩提(悟り)に至ると説いたが、法華経では、煩悩を離れて菩提はなく、煩悩をそのまま悟りへと転じていけることを明かした。
生死即涅槃の生死は、迷いの境涯であり、涅槃は悟りの境地のこと。煩悩即菩提と同義。