小説「新・人間革命」 清新45 2016年年8月6日
そして、この一月二十日、帰国のあいさつのため、渋谷の国際友好会館に山本伸一を訪ねたのである。
教授は、今回の滞在中に、多くの学会員に接し、創価学会が生きた宗教団体として、真剣に文化、平和に貢献している一端をうかがい知ることができたとの所感を語った。
伸一は、二十一世紀にあって、宗教は今以上に、社会に必要な存在となっていくかどうかを尋ねた。
すると教授は、主に欧米における宗教事情を研究している立場から分析すると、社会的にも、個人という面でも、宗教を必要とする人は少なくなっていくのではないかとの見解を述べた。
つまり、宗教離れが進んでいくというのである。
しかし、憂慮の表情を浮かべて、「本来、宗教は人間にとって必要不可欠なものです」と付け加えた。
伸一も、人びとの心が宗教から離れつつあることを強く危惧していた。
近代インドの思想家ビベーカーナンダが「宗教を人間社会から取り去ったら何が残るか。獣類のすむ森にすぎない」(注)と喝破したように、宗教を失った社会も、人間も不安の濃霧のなかで、欲望という荒波に翻弄され、漂流を余儀なくされる。
そして、人類がたどり着いた先が、科学信仰、コンピューター信仰、核信仰、拝金主義等々であった。
だが、際限なく肥大化した欲望の産物ともいうべき、それらの“信仰”は、精神の荒廃や空洞化をもたらし、人間不信を助長し、公害や人間疎外を引き起こしていった。
科学技術も金銭も、それを人間の幸福、平和のために使っていくには、人間自身の変革が不可欠であり、そこに宗教の役割もある。
小説『新・人間革命』の引用文献
注 『スワミ・ヴィヴェーカーナンダ その生涯と語録』ヴィヴェーカーナンダ研究会編、アポロン社