小説「新・人間革命」 清新66 2016年年8月31日

「インド独立の父」「マハトマ」(偉大な魂)と仰がれ、慕われたガンジーは、インド国歌が制定される二年前の一九四八年(昭和二十三年)一月三十日に暗殺され、世を去っている。
しかし、大国の横暴と圧政に抗して、非暴力、不服従を貫き、独立を勝ち取った魂は、国歌とともに、インドの人びとの心に脈打ち続けるにちがいない。
インド初代首相のネルーは、ガンジーの希望は「あらゆる人の目からいっさいの涙をぬぐい去ることであった」(注)と語っている。
それは、この世から悲惨の二字をなくすと宣言した、恩師・戸田城聖の心でもあり、また、山本伸一の決意でもあった。
伸一は、戸田が逝去直前、病床にあって語った言葉が忘れられなかった。
「伸一、世界が相手だ。君の本当の舞台は世界だよ」「生きろ。うんと生きるんだぞ。そして、世界に征くんだ」
この遺言を心に刻み、彼は第三代会長として立った。
会長就任式が行われた六〇年(同三十五年)五月三日、会場となった日大講堂には戸田の遺影が掲げられ、向かって右側には、戸田の和歌が墨痕鮮やかに大書されていた。
 
「いざ往かん 月氏の果まで 妙法を 拡むる旅に 心勇みて」
 
会員七十五万世帯の達成へ本格的な弘教の火ぶたを切った五二年(同二十七年)正月の歌である。
伸一は、広宣流布への師の一念を生命に刻印する思いで遺影に誓った。
生死を超えて、月氏の果てまで、世界広布の旅路を征きます
今、その会長就任から二十年目となる五月三日が近づきつつあった。恩師が詠んだ、あの月氏の大地にも、多くの若き地涌の菩薩が誕生している。
伸一は、インドに思いを馳せた。
──悠久なるガンジスの川面に、「七つの鐘」が鳴り響き、新しき時の到来を告げる清新の風が吹き渡ってゆく。
そして、燦然と燃え輝く仏法西還の勝利の太陽が、彼の瞼いっぱいに
広がった。  (この章終わり)
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 坂本徳松著『ガンジー』旺文社