小説「新・人間革命」源流 20 2016年9月24日

訪印二日目の二月七日──。
午前十時半、山本伸一たちは、モラルジ・デサイ首相の官邸を訪ねた。ニューデリーのサフダルジャン通りにある、緑に囲まれた白い建物であった。
首相は、間もなく八十三歳になるという。
インドの多くの指導者がそうであるように、首相も、マハトマ・ガンジーの不服従運動に加わり、インド国民会議派として独立のために戦ってきた。
投獄もされた。
その信念の人の目には、若々しい闘魂の輝きがあった。
伸一は、デサイ首相にどうしても聞いておきたいことがあった。
インドには中国との国境を巡る問題があり、まだ解決にはいたっていない。今後、この問題にどうやって向き合っていくかということである。
ネルー帽を被り、メガネをかけた彫りの深い端正な顔に、柔和な微笑を浮かべて、首相は答えた。
「話し合いによって解決できることが望ましいと思っています。
この問題が解決したならば、また友好的な関係になることができるでしょう。
というのは、インドと中国は歴史的なつながりも深く、私たちは中国を信頼し、兄弟のように思っているからです。
一九四九年(昭和二十四年)の中国革命以来、インドは中国を支持し、国連においても中国加盟を支持してきました。
それなのに国境問題が起きたことは大変に残念です」
重ねて伸一が、「今後の見通しは明るいと思われますか」と尋ねると、首相は、きっぱりと答えた。
「私はいつも楽観的でいます。悲観的であったことはありません」
ガンジーも、「私はどこまでも楽観主義者である」(注)と語っているように、楽観主義は、指導者の大切な要件といってよい。
楽観主義と、努力や準備を怠り、どうにかなるだろうという生き方とは全く異なる。
楽観主義とは、万全の手を尽くすことから生じる、成功、勝利への揺るがざる確信と、自らを信ずる力に裏打ちされている。
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 K・クリパラーニー編『≪ガンジー語録≫抵抗するな・屈服するな』古賀勝郎訳、朝日新聞社