小説「新・人間革命」源流 39 2016年10月18日

山本伸一は、日々、インドの指導者たちと会い、意見交換することが楽しみであった。
二月九日──空は澄み渡っていた。
午前十一時には、バサッパ・ダナッパ・ジャッティー副大統領をニューデリーの官邸に訪ねた。
官邸は、緑の多い官庁街の一角に立つ、白亜の清楚な建物であった。
白いインドの民族衣装に身を包んだジャッティー副大統領は、六十六歳で、物静かな哲人政治家といった風貌の紳士であった。
会談は、アショーカ王カニシカ王といった仏教に縁の深い古代インドの王の話から始まり、その政治哲学へ、さらにタゴールの崇高な精神、平和主義へと及んだ。
伸一が、副大統領に人生のモットーを尋ねると、即座に、「人間的であること、精神的であること、道徳的であることの三つです」との答えが返ってきた。
さらに、人生を生きるうえでも、政治を行ううえでも、「人格の純粋性」が大切であることを強調した。
そして、個人の内面、精神の世界に平和が確立されることが根本であり、それを全人類にまで広げていくことによって、現実の世界を、釈尊のいう浄土に変えていきたいというのが副大統領の意見であった。
伸一は、両手を大きく広げ、「全く同感です」と賛同の意を示し、それこそが創価学会がめざす、人間革命を機軸にした平和運動であることを語った。
また、この年が「国際児童年」であることから、子どもについてのインドの課題を尋ねた。
「インドの子どもも、世界の子どもも、第一の問題は健康の増進です。そして、そのために十分な医療、薬品、食糧が不可欠です」
副大統領は、まず生きることを確保する必要性を訴えたのだ。
世界は、先進諸国のように、飽食で医療施設にも恵まれた国ばかりではない。発展途上国には十分に食べることができず、健康を維持できぬ子どもがたくさんいる。
子どもたちの生命と生活を守ることは、常に世界が急務とすべきテーマである。