小説「新・人間革命」源流 40 2016年10月19日
ジャッティー副大統領は、しばらく視線を落とした。憂いに満ちた目であった。
やがて、その目は、次第に輝きを増していくように感じられた。それは、未来を担う子どもたちのために、インドを発展させようとする決意の光であったのかもしれない。
今回の訪印中、山本伸一は、子どもたちと努めて言葉を交わし、兄弟、姉妹について尋ねてみた。
すると、「十二人いましたが、三人死んで、九人です」などと、亡くなった兄弟、姉妹のことが、よく話題になった。疾病で他界したケースが多かった。
零歳児の死亡率もかなり高いようだ。
人は、まず何よりも生き抜かねばならない──副大統領は、この切実なテーマに向き合い、格闘していたのであろう。
インドでは、「男の子を産むことは一つの生活防衛になる」という話も耳にした。
子どもたちは、親が学校に通わせなくとも、働き手となる。社会保障が十分でない状況では、子どもの多い方が、やがて暮らしは楽になるという論理が働く。
貧しさゆえの多産、そして人口過剰──大国インドの指導者の苦悩が感じられた。
副大統領は、言葉をついだ。
「第二の問題は、子どもの人格形成をいかに図るかです。これには、道徳と精神の道を歩ませなければなりません」
伸一は、指導者たちが、未来の発展のために、インドの深き精神性を青少年に伝え、教育に力を入れようとしていることを強く感じた。
二十一世紀の世界を考えるうえでも、極めて重要な着眼点であると思った。
物心両面にわたって、子どもを守り育てていくことは、大人の責任であり、義務である。
社会の新たな改革は、未来からの使者である子どもたちに、希望と勇気の光を送るところから始まるといってよい。
小説『新・人間革命』の引用文献