小説「新・人間革命」源流 44 2016年10月24日

ナラヤナン副総長も、山本伸一と同じく、図書贈呈を単に書物の授受の儀式に終わらせたくはなかったようだ。
副総長は伸一に、「ぜひ、語らいの時間をもってください」と言い、教員、学生らに自己紹介するように促した。懇談が始まった。
一人の男子学生が挙手し、伸一に尋ねた。
「私は、創価学会を専門的に研究して、博士号を取得しようと思っています。山本先生は仏教について、どのようにお考えですか」
すかさず副総長が説明した。
「つまり、彼にとっては、山本先生こそが研究対象なんです」
「はい。なんでも聞いてください。あなたの研究に尽力できることを嬉しく思います」
伸一は、一つ一つの質問に、丁寧に答えていった。青年を軽んじることは、未来を軽んじることである。
ネルーは、「青年は明日の世界だ」「明日の世界は諸君の肩にかかっている」(注)と訴えている。
伸一は、回答のたびに、「おわかりいただけましたか? では、次の質問をどうぞ!」と確認しながら話を進めた。
そのやりとりを副総長は、微笑みを浮かべて見ていた。
語らいの時間は、瞬く間に過ぎていった。
副総長は言った。
「今日は、学生の質問に、誠実にお答えいただき、ありがとうございました。
質問した学生だけでなく、皆、創価学会を、また、山本先生のお人柄を、よく理解したのではないかと思います」
恐縮しながら、伸一は答えた。
「私の方こそ大変にお世話になりました。青年たちと触れ合いの場をもてたことは、最も有意義なひと時でした。
ただ副総長と、ゆっくりお話しできなかったことが残念です。
またお会いできますよう願っております」
学生たちは、一列に並び、瞳を輝かせて、一行を見送った。
伸一は、学生一人ひとりと握手を交わしていった。
青年の瞳は未来を映す。そこに輝きがある限り、その国の未来には希望の光がある。
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 「朝日新聞」1957年10月8日付