小説「新・人間革命」源流 59 2016年11月10日

インド滞在も八日目を迎えた。パトナからカルカッタ(後のコルカタ)へ移る十三日の午前中、山本伸一のホテルにビハール州パトナ区のG・S・グレワル長官が訪ねてきた。
ターバンとヒゲがよく似合う長官は、区の裁判所長官でもある。
「表敬訪問させていただきました。本来ならば、皆さんを、いろいろな場所にご案内したかったのですが、公務繁多のために実行できず、申し訳ありません……」
一行のパトナ来訪を心から喜び、丁重に謝意まで表する長官の誠意に彼は恐縮した。
伸一は、このインド訪問で友好と平和のための有意義な交流が図れたことを伝えるとともに、「すばらしいパトナの様子と黄金の思い出を日本に紹介していきたい」と語った。
会見を終えた伸一は、パトナ博物館を見学。午後三時前、空路、インド最後の訪問地となるカルカッタへ向かったのである。
翌十四日午前、彼は、カルカッタを擁する西ベンガル州のトリブバン・ナラヤン・シン知事の公邸を表敬訪問した。
知事は、この機会を待ちわびていたかのように、あいさつも早々に、こう切り出した。
「ぜひ会長に伺いたい。世界の平和と友好を実現していくための方法について、具体的な考えをお聞かせいただきたいのです」
抽象的な話や単なる言葉ではなく、平和のために実際に何をしたのか、何をするのかを、問いたかったのであろう。
伸一は、具体的な取り組みとして、「核兵器の廃絶」「軍縮の推進」「文化交流」「教育交流」「民衆間の交流」などを示した。
そして、項目ごとに、これまでに行ってきたことと、その意義と広がりを説明した。
「つまり私どもは、現実に行動できる身近なことから着手してきました。
小さな一滴であっても、やがては大河となり、大海に通じます。千里の道も一歩からです。
まず踏み出すことです。動かなければ何も進みません」
希望の未来は、待っていては来ない。自らが勇気をもって歩みを開始することだ。