小説「新・人間革命」 大山 十三 2017年1月17日

山本伸一には、以前から考えてきたことがあった。それは、会長の交代であった。
一人の人間が長期間にわたって責任を担っていたのでは、人材は育ちにくい。
令法久住のためにも、早く後継の流れをつくっておきたいというのが、彼の願いであった。
会長就任十年を経た一九七〇年(昭和四十五年)に、いつかは辞任したい旨の意向を何度か執行部に伝えたが、会長は「終身」であることを理由に反対された。
また、七四年(同四十九年)に、宗教法人としての創価学会の代表役員を理事長に委譲した際や、七七年(同五十二年)にも交代の話を出したが認められなかった。
しかし、会長就任以来十九年を経て、「七つの鐘」も終了する。折を見て会長の交代をとも考えていた。
彼は、まだ五十一歳であり、幸いにして元気である。
会長を退いても、皆を見守りながら、応援していくこともできるとの思いがあった。
仏法者として世界を展望する時、伸一には、やらねばならぬことが多々あった。
世界平和の建設のため、より広範に具体的な行動も起こしていきたかった。世界の指導者との対話も、さらに重ねていく必要性を感じていた。
仏法を基調にした文化、教育の推進にも、一段と力を注ぎたかった。
そして何よりも、世界広布は、いよいよこれから本格的な建設期を迎える段階にある。
だが、自分が世界へと大きく踏み出すならば、日本国内のバトンを受け継ぐ者は、激浪の海へ船出していくことになる。
学会は絶頂期にあるとはいえ、暗雲が垂れ込め、嵐が吹き荒れているのだ。それは、決して容易な航路ではない。大試練を覚悟しなければなるまい。
後を託す幹部には、信心の透徹した眼で魔を魔と見破り、勇猛果敢に戦い進んでいく決意と行動が不可欠になろう。
伸一は、今こそ皆に勇気をもってほしかった。
古代ローマの哲人セネカは言う。
「逆境の衝撃も勇気ある人の心を変えることはない」(注)
 
小説『新・人間革命』語句の解説
◎令法久住/「法をして久しく住せしめん」と読む。法華経見宝塔品第十一の文。未来にわたって、妙法を伝えていくこと。  
 
引用文献
注 「神慮について」(『セネカ 道徳論集(全)』所収)茂手木元蔵訳、東海大学出版会