小説「新・人間革命」 大山 十八 2017年1月23日
山本伸一は、一九五二年(昭和二十七年)四月、日蓮大聖人の宗旨建立七百年慶祝記念大法会の折の出来事を思った。
──学会の青年たちが、僧籍を剥奪されているはずの笠原慈行を総本山で発見した。
笠原は、戦時中、時局に便乗して神本仏迹論の邪義を唱え、保身のために大聖人の正法正義を踏みにじった悪僧である。
彼の動きが契機となって軍部政府の弾圧が起こり、牧口常三郎の獄死の遠因ともなったのである。
青年たちは彼を牧口の墓前に連れて行き、神本仏迹論の誤りを認めるように迫り、それが騒ぎとなったのだ。
この時、既に宗門は、笠原を密かに僧籍復帰させていた。
正法を根本から歪める邪義を不問に付したのである。
そして、戸田に対して、謝罪文の提出、大講頭の罷免、登山停止という処分を決議した。
神本仏迹論を主張し、宗祖の教えを踏みにじった悪僧を、宗会は庇いたて、その悪を正した戸田を厳重処分にしようというのだ。
「宗会の決議取り消しを要求する!」「断じて戸田先生を守れ!」──伸一をはじめ、弟子たちは決然と立ち上がった。
宗会議員一人ひとりと直接会って、笠原事件の経緯と真実を語り、決議の理不尽さを訴え、撤回を求めていったのである。
伸一は、礼を尽くして対話していったが、胸には憤怒の火が燃え盛っていた。
“宗会は、戸田先生の大講頭罷免や登山停止など、お一人だけを処分するつもりだ。
これは、会長である先生と会員との分断策だ。
戸田先生なくして、いったい誰が広宣流布を進めるのだ! 何があろうが、私たちが戸田先生をお守りする。
正義を貫かれた、なんの罪もない先生を処分などさせるものか!”
それが伸一の胸中の叫びであり、当時の学会首脳、青年部幹部の決意であった。
広布破壊を狙う魔は、常に師弟の分断を画策する。
小説『新・人間革命』語句の解説