小説「新・人間革命」 大山 二十六 2017年2月1日
山本伸一は、一冊のアルバムを用意していた。
伸一は、アルバムを一ページ一ページ開いて、鄧穎超に見せながら、「留学生も、しっかり勉強しています」と、近況を紹介していった。
彼女は、写真に視線を注ぎ、満面に笑みをたたえて言った。
「日本へ来る前から、創価大学には、ぜひ行きたいと思っていました。しかし、その時間が取れずに残念です」
そして、前年九月の、伸一の第四次訪中を振り返り、懐かしそうに思い出を語った。
友好的な意見交換がなされ、時間は瞬く間に過ぎていった。
鄧穎超は伸一に、「ぜひ、また中国においでください」と要請した。
彼は、「必ずお伺いします。中国での再会を楽しみにしております」と笑顔で答え、約四十分間に及んだ和やかな語らいは終わった。
皆、席を立ち、出入り口に向かった。
伸一は“鄧先生には、どうしても伝えておかなければ……”と思い、口を開いた。
「実は、私は創価学会の会長を辞めようと思っています」
鄧穎超の足が止まった。伸一を直視した。
「山本先生。それは、いけません。まだまだ若すぎます よりあなたには、人民の支持があります。人民の支持がある限り、辞めてはいけません」
真剣な目であった。周総理と共に、中国の建設にすべてを捧げてきた女性指導者の目であり、人民を慈しむ母の目であった。