小説「新・人間革命」 大山 二十九 2017年2月4日
深い交友を重ねてきた松下翁にも、会長を辞任する意向であることを伝えておかなくてはと思った。
「私は、次代のため、未来のために、会長を辞任し、いよいよ別の立場で働いていこうと思っています」
松下翁は、子細を聞こうとはしなかった。笑顔を向けて、こう語った。
「そうですか。会長をお辞めになられるのですか。私は、自分のことを誇りとし、自分を称賛できる人生が、最も立派であると思います」
含蓄のある言葉であった。立場や、人がどう思い、評価するかなどは、全くの些事にすぎない。自分の信念に忠実な、誠実の人生こそが、人間としての勝者の道である。
この日、伸一は、神奈川県横浜市に完成した神奈川文化会館へ向かった。
翌十四日に行われる開館記念勤行会に出席するためである。
午後八時過ぎに、新法城に到着した。
文化会館は、地上十階、地下二階建てである。赤レンガの壁が重厚さと異国情緒を醸し出していた。
会館の前は山下公園で、その先が横浜の港である。船の明かりが揺れ、街の灯が宝石をちりばめたように、美しく帯状に広がっている。
「七つの鐘」を鳴らし終え、平和・文化の大航路を行く創価の、新しい船出を告げるにふさわしい会館であると、伸一は思った。
星空に汽笛の音が響いた。新生の朝が、間近に迫りつつあることを彼は感じた。