小説「新・人間革命」 大山 三十二 2017年2月8日

山本伸一キッシンジャーは、庭を散策したあと、応接室で語り合った。
キッシンジャーは、自身の回想録が、間もなく発刊の予定であることを伝えた。
「ここに書かれた内容は外交政策についてであり、私の行ったことです。私の人生についてのものではありません」
すかさず伸一が、「現実に何を行ったかこそが、外交上も、人生を創造していくうえでも、最重要です」と言うと、彼は照れたように笑いを浮かべた。
話題は多岐にわたった。
それぞれの人生を振り返りながら、影響を受けた人びとや、今の青少年に伝え残すべきことは何かなどが語り合われ、世界の諸情勢へとテーマは広がった。
戦争の危機に話が及ぶと、伸一は、平和には裏づけとなる哲学、思想、宗教が必要不可欠であると主張。キッシンジャーも全面的に同意した。
そこで伸一は、インドの歴史に触れ、アショーカ大王の治世に言及し、平和の礎となる仏法の法理について訴えていった。
「アショーカは、仏法の教えというものを根幹にすることによって、理想的な政治を行うことができたといえます。
仏法は本来、すべての人びとが『仏』という尊極無上の生命、すなわち『仏性』を具えていると説いています。
それこそが、生命尊厳の確たる裏づけであると同時に、万人平等の哲理ともなります。
また、そこから平和主義、人間主義の思想も生まれます」
二人は、提起し合った問題を掘り下げていくには、多くの時間を要するため、将来、もう一度、対談し、二十一世紀を建設するための示唆を提供していこうと約し合った。
それが実現し、一九八六年(昭和六十一年)九月、二日間にわたって語らいが行われた。
これに往復書簡もまじえ、月刊誌『潮』に翌八七年(同六十二年)一月号から八月号にわたって対談が連載された。
そして同年九月、単行本『「平和」と「人生」と「哲学」を語る』として潮出版社から刊行されている。