小説「新・人間革命」 大山 五十 2017年3月2日

激動の一夜が明けた四月二十五日
──「聖教新聞」一面で、「七つの鐘を総仕上げし新体制へ」との見出しで、新会長に十条潔、新理事長に森川一正が就任し、学会は新体制で出発することが発表された。
また、会長を辞任した山本伸一は名誉会長となり、併せて宗門の法華講総講頭も辞任することが報道されていた。
さらに、「全国会員の皆様へ」と題して、伸一のメッセージが掲載されたのである。
その中で彼は、前日の県長会で発表された三点にわたる会長勇退の理由を述べた。
そして、新たに到来する一九八〇年代を展望し、「社会、世界に、信頼と安定の創価学会をば、新会長を中心に立派にもり立てていただきたい」と訴えたのである。
何度も読み返した人もいた。辞任の経緯はわかったが、発表を聞いたのは昨日であり、皆、戸惑いは拭いきれなかった。
この日、午後一時半から、信濃町の広宣会館(創価文化会館内)で、「七つの鐘」総仕上げを記念する四月度本部幹部会が開催された。
いつもなら参加者は喜々として集って来る。しかし、皆の表情は硬かった。
これから、山本先生はどうなってしまうのか”“学会はどうなってしまうのか そんな思いが、心に不安の影を投げかけ、皆の顔から笑みを奪っていたのだ。
参加者が会場に入ると、普段とどこか違っているように感じられた。
いつも会長のスピーチのために、前方に向かって左側に用意してあるテーブルとイスがなかった。
そんなことも、寂しさを募らせるのである。
やがて伸一が入場した。歓声があがった。
伸一は、悠然と微笑みながら言った。
「さあ、万歳を三唱しよう。学会の新しい出発だもの。威風堂々と進むのが学会だ。
師子は、いつも師子じゃないか!」
力強い声に勇気が湧いた。一人の闘魂が、皆の闘魂を呼び覚ます。
御聖訓には「一の師子王吼れば百子力を得て」(御書一三一六ページ)と。元気な「万歳!」の声が響いた。