小説「新・人間革命」 大山 五十八 2017年3月11日
伸一には、その師の気持ちが痛いほどわかった。戸田は、再確認するように語った。
「私と君とが、使命に生きるならば、きっと大聖人様の御遺命も達成する時が来るだろう。
誰がなんと言おうと、強く、強く、一緒に前へ進むのだ!」
伸一は、潤んだ瞳を上げた。
「先生、決して、ご心配なさらないでください。
私の一生は、先生に捧げて、悔いのない覚悟だけは、とうにできております。
この覚悟は、また、将来にわたって、永遠に変わることはありません」
まさに背水の陣ともいうべき状況のなかでの、厳粛な師弟の対話であった。
しかし、討つべき足利方の軍は大軍であり、敗北は必至であった。
死を覚悟しての戦いである。
だが、正行も、父と共に討ち死にする覚悟であり、帰ろうとはしない。
正成は、涙ながらに、もしも二人が共に討ち死にしてしまえば、尊氏の天下となってしまうことを訴え、正行を説き伏せる。
戸田が愛し、青年たちに、よく歌わせた歌である。正成は、正行に言う。