小説「新・人間革命」 雌伏 十四 2017年4月8日

山本伸一は、入会三十二周年となる八月二十四日を、長野研修道場で迎えた。新しい決意で出発を誓い、真剣に勤行した。
昼過ぎには、青年たちと自転車で周辺を回った。戸田城聖が最後の夏を過ごした地を巡ることで、在りし日の恩師を偲びたかったのである。
伸一が研修道場に帰って来ると、ちょうど教育部(後の教育本部)の青年教育者の代表が、研修会に参加するため、バスで到着したところであった。
メンバーは、バスの中で、「山本先生が研修道場に滞在中です」と聞かされ、喜びが弾けた。皆、研修道場の玄関前に並び、満面の笑みで伸一を迎えた。
「皆さん、ありがとう! お会いできて嬉しい。では、一緒に記念撮影をしましょう!」
彼は、メンバーと共にカメラに納まった。
「私はこの通り元気です! 皆さんも創価の誇りを胸に、わが使命の道を、元気に勝ち進んでいってください。
ともかく、何があっても、絶対に退転しないことです。
この一点を深く心に刻んでください。
広布の道を踏み外していく人を見るのが、私はいちばん辛いし、胸が痛むんです」
この日の夕刻も、伸一は、地元の同志の家を訪問し、集った人たちと懇談した。
翌二十五日午前、教育部のメンバーと研修道場の庭でテニスをし、激励を重ねた。
コートは、研修会に来た人たちの思い出になるように、地元メンバーが急ごしらえしたものであった。
このあと、伸一は、皆と一緒に勤行し、出発するメンバーを拍手で見送った。
彼は、制約のあるなかで、どうすれば同志を励まし、勇気づけることができるか、祈りに祈り、智慧を絞った。
御聖訓には「信心のこころ全ければ平等大慧の智水乾く事なし」(御書一〇七二ページ)と仰せである。
広宣流布への強き一念と祈りがあるかぎり、いっさいの障壁を打ち砕き、必ず勝利の道を切り開いていくことができるのだ。