小説「新・人間革命」 雌伏 三十七 2017年5月6日

荒川文化会館に到着した山本伸一は、集っていた鼓笛隊のメンバーらと共に勤行し、鼓笛隊総会の成功、そして、鼓笛の乙女らの成長と幸せを願い、深い祈りを捧げた。
また、荒川のメンバーの代表とも懇談し、活動の模様などに耳を傾けた。
話題が一九五七年(昭和三十二年)八月の、伸一の荒川指導に及ぶと、彼は言った。
「私は、あの闘争で、草創の同志と共に、あえて困難な課題に挑戦し、勝利王・荒川の歴史を創りました。
この戦いによって、皆が広宣流布の苦難の峰を乗り越えてこそ、大勝利の歓喜と感動が生まれ、崩れざる幸福境涯を築くことができる
との大確信を、深く生命に刻みました。
あれから二十余年がたつ。今度は、皆さんがその伝統のうえに、さらに新しい勝利の歴史を創り、後輩たちに伝えていってください。
広宣流布の勝利の伝統というのは、同じことを繰り返しているだけでは、守ることも創ることもできません。
時代も、社会も、大きく変わっていくからです。
常に創意工夫を重ね、新しい挑戦を続け、勝ち抜いていってこそ、それが伝統になるんです。
つまり、伝えるべきは戦う心です」
戦う心という精神の遺産は、話だけで受け継がれていくものではない。
共に活動に励む実践のなかで生まれる魂の共感と触発によって、先輩から後輩へ、人から人へと、伝わり流れていくのである。
伸一は、言葉をついだ。
「今こそ、荒川の一人ひとりが、山本伸一となって敢闘してほしい。
一つの区に、未来へと続く不敗、常勝の伝統ができれば、学会は永遠に栄えます。
皆が、そこを模範として学んでいくからです。
荒川には、その大使命があることを忘れないでください。
私は今、自由に会合に出て、指導することもできません。
こういう時だからこそ、皆さんに立ってほしい。
すべてに勝って、学会は盤石であることを証明してほしいんです」
決意に輝く同志の眼が凜々しかった。