小説「新・人間革命」 雌伏 三十八 2017年5月9日

午後六時半、山本伸一は、荒川文化会館を出発し、鼓笛隊総会の会場である荒川区民会館へ向かった。
車に乗る時、同行の幹部が言った。
「ここから二百メートルほど行きますと隅田川です。川の向こうは足立区になります」
「そうか、足立か。できることなら、足立にも行って、皆を励ましたいな。
先日、足立の婦人から手紙をもらったんだよ。あれが、みんなの思いなんだろうな。
──先生が会長を辞任されてから、本当に寂しくて辛くて仕方なかった。
そのうえ、週刊誌などが無責任な学会批判を重ねるので、友人たちもそれを真に受け、ああだ、こうだと言ってくる。
悔しさで胸がいっぱいになる。でも、負けません。
今こそ、学会の、先生の正義を叫び抜いていきます。
こういう内容だった。この闘魂が、不屈の王者・足立の心意気なんです。
私は感動しました。皆、歯を食いしばって、頑張り抜いている。本当に頭が下がる。
皆さんには、断じて幸せになってほしい。そのための信心であり、学会活動だ。
だから試練の時こそ自らを鼓舞し、広宣流布の庭で必ず勝利の花を咲かせ、見事な幸の果実を実らせてほしい。
どうか、足立の皆さんに、『日々、お題目を送っています。
自分に勝ってください。宿命に勝ってください。広布の戦いに勝ってください。
そして、幸せの花薫る勝利の人生を!』と伝えてください」
車中、伸一は、足立の同志たちを思い、真剣に心で題目を唱え続けた。
「二〇〇一年 大いなる希望の行進」をテーマに掲げた第三回鼓笛隊総会の最終公演が、二十六日午後七時から、荒川区民会館で華やかに行われた。
新世紀をめざす、この平和の天使たちの活動も、学会が進めている文化・教育の運動の一つである。
山本伸一は、鼓笛隊から再三にわたり出席を要請されており、皆を元気づけることができればと、招きに応じたのである。