小説「新・人間革命」 雌伏 四十 2017年5月11日

山本伸一は、女子部には虚栄に生きるのではなく、民衆の子であることを誇りとして、民衆の大地に根を張り、民衆と共に、民衆のために生き抜いてほしかった。
そこにこそ現実があり、そこで築いた幸せこそが、幸福の実像であるからだ。
彼は、その願いを込めて、女子部に詩「民衆」を贈ったのである。
鼓笛隊は、前年の一九七八年(昭和五十三年)十月、東京・八王子の創価大学のグラウンドで第二回鼓笛隊総会を開催。
ここで、初めて交響詩「民衆」が披露されたのである。この総会は、雨の中で行われた。
女子部合唱団三千人の熱唱、群舞メンバー三千人の躍動、鼓笛隊アンサンブル百五十人による熱こもる演奏が繰り広げられた。
雨は容赦なくたたきつける。合唱団も、奏者も楽器も濡れていく。グラウンドで踊る群舞メンバーの青、黄、ピンクの真新しいドレスの裾も泥水に染まる。
しかし、
その表情は晴れやかであり、誇らかであった。民衆の時代を創造しようという、は
つらつとした気概にあふれていた。
伸一も雨に打たれながら、演技を鑑賞した。彼のスーツはびっしょりと濡れていった。
しかし、降りしきる雨をものともせぬ、乙女たちの真剣な姿を見ると、傘など差す気にはなれなかった。
ただ、皆が風邪をひかないように心で唱題しながら、華麗にして力強い舞台を見守っていた。
交響詩「民衆」が終わると、大拍手がグラウンドを圧し、雲を突き抜けるかのように天に舞った。その瞬間、雨があがった。太陽が顔を出したのだ。
伸一は、この総会から、皆が、何があろうと断じて負けずに広宣流布の共戦の道を歩み通す心を学び取ってほしかった。
そして、そこには、必ず希望の太陽が輝くことを生命に刻んでほしかった。
その信強き女性の連帯こそが、民衆凱歌の幕を開く力となるからだ。
以来一年余、彼は、この第三回鼓笛隊総会で再び交響詩「民衆」を聴いたのである。