小説「新・人間革命」 雌伏 五十二 2017年5月25日

山本伸一は、皆と一緒に勤行し、四国から来たメンバーの帰途の無事と、全参加者の健康と一家の繁栄を祈念しようと交流幹部会の会場に姿を現した。
幾つもの懐かしい顔が、彼の目に飛び込んできた。
伸一は、何人かの同志に、次々と声をかけていった。
そして、四国の壮年幹部らに語り始めた。
「幹部は、決して威張ったり、人を叱ったりしてはいけないよ。どこまでも、仏子として敬い、大切に接していくことです。
戸田先生は、弟子を叱られることがあったが、そこには深い意味がありました。
第一に、広宣流布のために弟子を訓練し、自分と同じ境涯に高め、一切を託そうとされる場合です。
その人が担っていく責任が重いだけに、それはそれは、厳しく叱咤されることもあった。
第二に、魔に信心を妨げられている人を、どうしても立ち上がらせたいという時に、その魔を打ち破るために、叱られた。
人間には、直情径行であるために皆と調和できない人や、自滅的な考えに陥ってしまう人、困難を避けて通ろうとする人、いざとなると責任転嫁をしたり、ごまかそうとしたりする人もいる。
そうした傾向性や、その背後に潜む弱さ、ずるさ、臆病が一凶となり、魔となって、自身の信心の成長を妨げ、さらに幸福への道を誤らせてしまう。
ゆえに戸田先生は、その一凶を自覚させ、断ち切るために、叱られるとがありました。
第三に、多くの人びとに迷惑をかけ、広宣流布の団結を乱している時などには、本人のため、皆のために、それをやめさせようとして叱ることがありました。
つまり、いかなる場合も戸田先生の一念の奥底にあるのは、大慈大悲でした。
それもわからず、言動の一端を真似て、同志を叱るようなことがあっては絶対にならないし、どんな幹部にもそんな権利はありません。
誤りを正さなければならない場合でも、諄々と話していけばよいことです」