小説「新・人間革命」 雌伏 五十三 2017年5月26日

山本伸一は参加者に近況などを尋ね、ちょっとした話題を契機に、信心やリーダーの在り方に触れ、指導、激励していった。皆、その自在な語らいを望んでいたといってよい。
話は、同志に接する幹部の姿勢に及んだ。
「幹部の皆さんは、会員の方々の意思をどこまでも尊重し、相手を傷つけるようなことがないように、心していってください。
また、さまざまな方がいることでしょう。
全員が、素直に話を聞いてくれるわけではありません。
リーダーは苦労も多いが、大きな心で皆を包み、幸せになるように全力を注ぎ、忍耐強く励ましていくなかに仏道修行があるんです。
その苦労が、自身の功徳、福運となっていきます。
草創期に歌った学会歌の『日本男子の歌』に、『海をも容るる 慈悲を持ち』とあるじゃないですか。そう歌いながら、実践しないのは、問題ですよ」
笑いが広がった。
「では、勤行しましょう!」
伸一の導師で勤行が始まった。広宣流布誓願する師弟の読経・唱題の声は、力強い躍動の音律となって響いていった。
午後三時半からは、会食懇談会が開始された。伸一は、八階の壮年・婦人の会場に出席し、同じテーブルに着いたメンバーの報告に耳を傾けた。
やがて五階にいた青年たちも合流し、アトラクションが始まった。
「南国土佐を後にして」の合唱や、阿波踊りなどが次々と披露されていった。
伸一は、「楽しくやろうよ」と声をかけ、一つ一つの演技に惜しみない拍手を送るのであった。
歌や踊りが一段落すると、彼は言った。
「では、私がピアノを弾きます」
最初に「厚田村」の調べが流れた。
今こそ、恩師・戸田城聖のごとく、北海の吹雪に一人立ち向かう勇気と覇気とをもって、雄々しく前進してほしい
──そう願いながら、鍵盤に指を走らせた。
試練は人を鍛える。なれば、広布を阻む猛吹雪に敢然と挑みゆく人は最強の勇者となる。