小説「新・人間革命」 雄飛 九 2017年6月24日

四月二十五日、山本伸一を団長とする訪中団一行は、北京を発ち、空路、広東省省都広州市を経て、桂林市を訪ねた。
翌日、車で楊堤へ出て、煙雨のなか、徒歩で漓江のほとりの船着き場に向かった。
霧雨の竹林を抜けると、河原にいた子どもたちが近寄ってきた。
そのなかに天秤棒を担いで、薬を売りにきていた二人の少女がいた。
彼女たちは、道行く人に、「薬はなんでもそろっていますよ。お好きなものをどうぞ」と呼びかけている。
質素な服に、飾り気のないお下げ髪である。澄んだ瞳が印象的であった。
伸一は、微笑みながら、自分の額を指さして、「それでは、すみませんが、頭の良くなる薬はありませんか?」と尋ねた。
少女の一人が、まったく動じる様子もなく答えた。
「あっ、その薬なら、たった今、売り切れてしまいました」
そして、ニッコリと笑みを浮かべた。
見事な機転である。どっと笑いが弾けた。
伸一は、肩をすくめて言った。
「それは、私たちの頭にとって、大変に残念なことです」
彼は、妻の峯子と、お土産として、少女たちから塗り薬などの薬を買った。
少女の機転は、薬を売りながら、やりとりを通して磨かれていったものかもしれない。
子どもは、社会の大切な宝であり、未来を映す鏡である。
伸一は、子どもたちが、大地に根を張るように、強く、たくましく育っている姿に、二十一世紀の希望を見る思いがした。
そして、この子らのためにも、教育・文化の交流に、さらに力を注ごうと決意を新たにしたのである。
一行は、桂林市の副市長らに案内されながら、楊堤から漓江の下流にある陽朔まで約二時間半、船上で対話の花を咲かせた。
「江は青羅帯を作し、山は碧玉?の如し」(注)と謳われた桂林の景観である。川の両側には、?風のように奇岩が連なる。
白いベールに包まれた雨の仙境を船は進んだ。
 
小説『新・人間革命』の引用文献
注 『続国訳漢文大成 文学部第九巻 韓退之詩集 下巻』東洋文化協会=現代表記に改めた。